小倉智昭「がん治療の副作用にもだえ、三途の川を渡りかけたら父がいた」古市憲寿だから聞けた闘病中の本音とは
◆点滴でしのぐ日々 それで病院に行くと、先生の顔を見るなり、ベッドに倒れ込んじゃった。もうフラフラになってて。それで検査したら、あまりにも数値が悪すぎるもんだから、先生たちも大あわてになっちゃって。 キイトルーダはまだ新しい薬なので、副作用についてはわからないところもあった。腎臓に副作用が出て、人工透析をいきなりやらなきゃいけないような数値になっていたんですね。でも透析よりも先に輸血をしなければということになったり、また大量のステロイドを投与したり。 僕は、糖尿病もあるので、ステロイドを打って食事すると、インシュリン打ってても血糖値が異常な数値になるんですよ。それまで高くても二百数十くらいで収まっていたのが、500とか、450とか、見たこともないような、もうメーターを振り切っちゃうような数字が出る。 でも「ステロイドのせいだから大丈夫、大丈夫」と言われながら、1週間くらいはそんな生活をしていたんです。飯は食えないから点滴でしのいでいた。 ──かなりきつかったんでしょうね。 うん、それでも自分でもえらいもんだなと思うのは、経営している会社の従業員の給料のことを考えていたってことだね。毎月25日にはどうしても給料を振り込まなければいけないので、かみさんに電話をして病院まで呼んで通帳とカードを渡して、手続きを頼んでいるんだよね。 そのときに俺を見たかみさんは、「もう駄目だと思った」って。目は虚ろ、言葉はしゃべれない、手は震えている。 「もう本当にひどくて同じ人間とも思えなかった。最期ってこんなもんなんだって思った」と言っていました。
◆三途の川のほとりに父がいた その頃だと思いますよ、三途の川を見たのは。 川のほとりで誰かしゃべっているんだよね。気がつくと、親父と僕がしゃべっているんですよ。細かい内容は忘れたけれど、覚えているのはこんな会話。 「じゃあ、そろそろ父さん行くから」 「俺まだ行きたくないから」 「そうか、お前はまだ行かないのか」 「もうちょっとこっちにいる」 「そうか、じゃあ父さん行くぞ」 そう言って、くるって背を向けて、親父が橋を渡っていった。本当に昔から聞いているようなストーリー通り。向こうにある花園のほうにだんだん親父が消えていくんだよ。 何となく意識が戻ったときに、“親父が迎えに来てたな、あれは何だったんだ、夢なのかな、あれが俗に言う臨死体験なのかな”なんてしばらく考えていました。 そういう話を前から聞いているから、そういう夢を見るのかしらね。どこの川というわけでもないけれど、リアルな夢でしたよ。