ちょうど1年前に敗れた「1月2日のPK戦」のリベンジ完遂!明秀日立は帝京との激闘を制して全国8強へ勝ち名乗り!
[1.2 選手権3回戦 明秀日立高 1-1 PK5-4 帝京高 U等々力] 「去年のことが頭をよぎりましたし、本当に悔しい想いをしたので、その雪辱を果たしたいなと思っていました。もう最高に気持ちいいですけど、今日のゲームもいろいろな学びがありましたし、次が一番大事なので、そこに向けて準備して、また全員で勝ちたいです」(明秀日立高・重松陽) 【写真】武藤嘉紀が初めての…ファン歓喜「息子くんそっくり」「親子でイケメン」「めっちゃ可愛い」 ちょうど1年前の“1月2日”に涙を飲んだPK戦で競り勝って、全国8強!第103回全国高校サッカー選手権は2日、各地で3回戦を行い、Uvanceとどろきスタジアムby Fujitsuの第2試合では明秀日立高(茨城)と帝京高(東京B)が激突。1-1でもつれ込んだPK戦の末に、明秀日立が勝ち上がった。4日の準々決勝では東海大相模高(神奈川)と対戦する。 いきなりの決定機は前半6分の明秀日立。中盤で前を向いたMF六崎蓮太(1年)が丁寧なスルーパスを送ると、抜け出したFW保科愛斗(3年)はGKと1対1に。ここは帝京GK大橋藍(3年)が絶妙なタイミングで飛び出し、ファインセーブで回避したものの、まずは明秀日立がこの試合に懸ける想いを打ち出してみせる。 「外から見ていたら、自分たちのやりたいことは消されているなと思いました」と藤倉寛監督も話した帝京は、相手の積極的なハイプレスもあって、なかなかいつものようなアタックを披露しきれない展開の中で、11分にはMF堀江真広(3年)の左クロスから、収めたFW森田晃(3年)のシュートは枠の右へ。20分にも左サイドからDFラビーニ未蘭(3年)がクロスを蹴り込み、森田のラストパスからMF杉岡侑樹(2年)が枠へ収めたシュートは、明秀日立GK重松陽(3年)がファインセーブで阻み、詰めたMF安藤光大(3年)のヘディングも重松がキャッチ。先制点には至らない。 「帝京高校みたいなスタイルのチームには、とにかく前からプレッシングに行くという判断と、ゴール前をちゃんと守るという判断をどう切り替えるかということが大事だと思っていました」(明秀日立・萬場努監督)。明秀日立は前線からキャプテンのFW竹花龍生(3年)と保科がプレスを掛け、後ろはDF久保遼真(2年)とDF菅野一葵(3年)のセンターバックを中心にコンパクトなラインを維持ながら、巧みに帝京のパスワークを寸断。前半は0-0のまま、40分間が終了する。 試合は意外なタイミングで動く。後半1分。明秀日立は左CKの流れから、六崎が残したボールを菅野がフィニッシュ。そのこぼれを拾ったMF柴田健成(3年)が思い切りよく左足を振り抜くと、ボールは右スミのゴールネットへ吸い込まれる。昨年度のインターハイ決勝でも日本一を引き寄せる2ゴールを挙げた、得点感覚に優れるボランチの貴重な先制弾。1-0。後半開始早々に明秀日立がリードを奪う。 畳み掛ける青。4分も明秀日立。保科のパスから右サイドを運んだ竹花は、カットインしながら枠内シュートを放つも、大橋がビッグセーブ。15分も明秀日立。途中出場のMF貝原利空(3年)のラストパスから、竹花が打ち切ったシュートはゴール左へ。18分も明秀日立。竹花の左CKに菅野が合わせたヘディングはクロスバーの上へ。「できれば1点獲った後に2点目を獲れれば、2-0で終われるかなという想いはあったんですけどね」とは萬場監督。好機は創出するものの、突き放せない。 リズム反転。次々と攻撃的な交代カードを切った帝京が攻める。キャプテンのMF砂押大翔(3年)が負傷交代するアクシデントにも屈せず、MF大屋雅治(3年)とMF永田煌(3年)がボールを引き出し、FW宮本周征(2年)は左サイドから果敢に勝負。前線ではFW土屋裕豊(3年)が虎視眈々と勝負の瞬間を狙い続ける。 カナリア軍団の咆哮は29分。相手の連係ミスを突いてボールを奪った大屋は、ドリブルで運んで左へ。宮本が左足で叩いたシュートは重松が懸命に弾き出したものの、誰よりも速く反応した土屋がこぼれ球をゴールネットへねじ込む。 「ああいう慌ただしいゲーム展開の中でも、途中から入っていった選手たちが自分の長所を出して、流れを引き寄せていったところでは、感心させられるようなプレーもありましたね」とは藤倉監督。途中投入された3人が有機的に関わり、執念でもぎ取った同点ゴール。スコアは振り出しに引き戻された。 35分は帝京に逆転のチャンス。宮本が左サイドを大屋とのワンツーで抜け出し、右足で打ったシュートはわずかに枠の左へ。40+2分には明秀日立に勝ち越しのチャンス。貝原の浮き球パスから、左サイドを単騎で飛び出した竹花のフィニッシュは、しかし枠の上へ消えていく。ファイナルスコアは1-1。全国8強の行方はPK戦で争われることになった。 2024年1月2日。高校選手権3回戦。この日からさかのぼること、ちょうど1年前。明秀日立は結果的に決勝まで駆け上がる近江高(滋賀)に、PK戦で敗退を突き付けられていた。「試合が始まる前も、去年のことは結構意識していました」。その試合にも出場していた重松は強い想いを抱いて、この日のゴールマウスに立っていた。 お互いに1人目は成功して、迎えた先攻・帝京の2人目。「あのキッカーに対しては、絶対にこっちだと思っていました」という重松は自らの右側へ飛んできたキックを、完璧なセーブで阻止。リベンジを期す守護神が、極限状態のピッチで躍動する。 明秀日立2人目のキックは、大橋も良くさわったものの、掻き出し切れずにゴール。3人目も、4人目も、双方のキッカーは成功。運命の5人目。帝京は永田が冷静にど真ん中へ蹴り込み、成功。明秀日立はキャプテンの竹花が登場。「決めれば勝ちというシチュエーションをみんなが取っておいてくれたな、と思って蹴りました」というキックは、GKの逆を突いてゴールネットを力強く揺らす。 帰ってきたカナリア軍団の奮戦、及ばず。明秀日立がPK戦を粘り強く制して、同校の選手権最高成績に並ぶベスト8進出を手繰り寄せる結果となった。 PK戦の主役となった重松が、「あのキッカーに対しては、絶対にこっちだと思っていました」と口にしたのには理由があった。 試合後の取材エリアで萬場監督は、こんな話を教えてくれた。「実は試合中にPK戦になることを予見して、ベンチ外の選手たちがみんなで分散しながら、帝京の誰がPKを蹴っているか、どっちに蹴っているかを調べていてくれたみたいで、『13番があっちに蹴る』という情報が見つかったというところで、共有してもらったんです」。 もちろんスタッフ陣も相手のスカウティングをしていなかったわけではない。ただ、今シーズンの帝京の試合記録を振り返っても、トーナメントでPK戦を戦った試合は1つもなかった。「私たちが調べている量だと調べ切れなかったところを、試合中のPKも確認してくれて、見つけてくれたんです」(萬場監督) 前述の重松の言葉は、その少し前から始まっていた最後の部分だ。「PKが始まる前に大塚先生(大塚義典GKコーチ)から聞いた情報を参考にしました。それを聞くと全員で勝ち切った勝利だったと思いますし、ベンチ外の選手が動いてくれて分析してくれたので、凄く感謝しています。だから、あのキッカーに対しては、絶対にこっちだと思っていました」。 萬場監督もベンチ外の選手たちへの感謝を隠さない。「アレはバックアップの選手たちのファインプレーだと思っていますし、本当に全員で勝ち獲った勝利だったなというような印象があります」。まさに総力戦で手にしたPK戦での白星。この勝ち方でチームが乗らないはずがない。 それでも、指揮官はしっかりと兜の緒を締め直す。「新しい歴史を作りたいと言って選手権に入ってきている中で、歴史を作るという意味では、こういう場面でも『日本一になりたい』と人の前でも言えるようになってきたなと。ただ、私たちの実力からすると、一戦ずつ本当にコミットして、丁寧に戦っていかなければそこまではたどり着かないという自覚があるので、明日はちゃんとリカバリーして、明後日にどういう狙いを持って戦うかということの目線を合わせて、ここで満足するのは避けたいと思っています」。 ここから先は、今まで以上にチームの総合力が問われるステージ。目指すは国立競技場のピッチと、その先の景色。明秀日立の新しい歴史を築くための冒険は、まだまだ終わらない。 (取材・文 土屋雅史)