「自爆テロをすれば天国に行ける」誘拐した少女の爆弾を巻きつけ、遠隔操作で爆発「テロで一番美味しい思いをしているのは…」
戦闘員の元妻の証言
現地の国際NGOの協力を得て、カノ郊外の民家で、ボコ・ハラムから逃れてきたという2人の女性から話を聞くことができた。 「毎日が怖くて仕方がなかった」と23歳の帽子職人の女性は震えながら振り返った。 「昨夏、自宅のある北東部グウォザがボコ・ハラムに襲われ、約600人の市民が殺された。私も銃を突きつけられて、2歳の長男と行政庁舎へと連れて行かれた。 庁舎には町の女性たちが集められており、リーダー格の男が『お前たちはこれから戦闘員の妻になる』と宣言した後、戦闘員の食事を作ったり、服を洗濯したりするよう命じられた。指示に従わない女性は、棒で体を激しく叩かれたり、隣の部屋に連れていかれて集団でレイプされたりした」 グウォザ出身の18歳の女性も、同じく町の集会場に監禁され、激しい「暴行」を受けていた(彼女は当時受けた「暴行」の詳細については語らなかった)。 「このままでは体を引き裂かれてしまう」と感じ、2日後の夜、20人の女性と一緒にフェンスをよじ登って逃げ出した。カメルーン国境にたどり着いたところで、国連部隊に保護された。 「いまも多くの女性たちが恐怖の中で助けを待っている」と女性は懇願するように言った。 「爆弾を体に巻きつけられて、市場で『自爆』を強制させられる前に、一日も早く彼女たちを救い出してほしい」
自爆テロで一番美味しい思いをしているのは…
なぜ、ナイジェリアで凄惨な悲劇が続くのか。 その2カ月前、私はナイジェリア中部の首都アブジャにいた。軍出身のブハリの大統領就任式典で、壇上に上った新大統領がボコ・ハラムの撲滅を宣言すると、詰めかけた数千人の観衆から一斉に拍手が巻き起こった。 しかし、どんなに政府が前線に特殊部隊を送っても、周辺5カ国が約7500人態勢の連合軍を創設しても、ボコ・ハラムはいっこうに弱体化しない。 「本当は誰もボコ・ハラムの撲滅なんて望んでいないのさ」とアブジャを拠点にするナイジェリア人ジャーナリストが教えてくれた。 「ナイジェリアはもともと、イスラム教徒が多く暮らす資源が乏しい北部と、キリスト教徒たちが住む資源が豊かな南部に分断され、互いが憎しみあっている。豊かな南部の人間は、自分たちの税金が北部のボコ・ハラム対策に浪費されることを嫌っている。彼らにとって、北部の市民やボコ・ハラムなんてどうでもいい存在なんだ」 一方、北部カノに拠点を置く海外通信社のベテラン記者はこんな見解を口にした。 「軍にはいま、ボコ・ハラム対策で膨大な予算が付いている。北部には軍の駐屯で多額の資金も落ちている。『悪』を必要としているのは、むしろ軍や北部の有力者たちだ。彼らが必要とする限り、ボコ・ハラムは北部に存在し続けるし、結果、テロが終わることもない」 ユニセフの報告によると、ボコ・ハラムは武装集団となった2009年から2015年までにテロで1万5000人以上の市民を殺害している。他方、アムネスティ・インターナショナルの報告によると、ナイジェリア軍もまた、対ボコ・ハラム作戦で市民を拷問し、8000人以上を虐殺している。 現地を訪れると、その矛盾を痛烈に感じる。北部には政府による極度の汚職がはびこり、市民は至る所で軍や警察から賄賂や便宜を強要される。軍に家族を殺されても、市民は何一つ文句が言えない。多くの市民は自国の政府にこそ憤っている。 ボコ・ハラムが北部で台頭している真の理由。それは北部の市民や若者たちがむしろ、自国の政府から家族や生活を守るために、ボコ・ハラムに身を投じているせいではないのか─。 「本当はみんな気づいているんだ」と北部カノを拠点に活動する女性ジャーナリストは言った。「少女たちの体に自爆ベルトを巻きつけて、遠隔操作のボタンを押している奴らは、間違いなくボコ・ハラムだ。でも、その自爆テロで一番美味しい思いをしているのは、ボコ・ハラムでもイスラム教徒でもない。首都のオフィスでスーツを着ている軍や官僚、一部の有力者たちなんだってことを……」 女性ジャーナリストの見解を聞きながら、私は嘔吐しそうだった。 彼女の言葉がもし正しいのだとすれば、少女たちは軍や政府の有力者たちの地位や予算やマネーゲームのために、その細い肩に今日も爆弾を装着されることになる。 文/三浦英之『沸騰大陸』より抜粋 構成/集英社学芸編集部