カルビー、フルグラの余剰オーツ麦がビールに 開発3年の舞台裏
カルビーと「コエドビール」を展開する協同商事コエドブルワリーがコラボしたクラフトビールが、2024年8月6日に発売された。カルビーが同社商品「フルグラ」の製造工程で発生した余剰オーツ麦を提供し、協同商事コエドブルワリーが製造販売を請け負う。開発期間は約3年、両社ともに「前例がなかった」と振り返るプロジェクトの軌跡をたどった。 【関連画像】カルビーが協同商事コエドブルワリーと共同開発したクラフトビール「飲んでミーノ(Mellow IPA)」。フルーティーな風味と、黒ビールのような苦味のハーモニーが印象的(写真提供/カルビー) 「カルビーがビール!?」 そんな声がSNS上で飛び交ったのが、2024年8月初頭のこと。「飲んでミーノ」と名付けられたカルビー初となるクラフトビールは、お菓子メーカーらしいそのポップなネーミングも後押しして、SNS上で話題を集めた。 聞けば、カルビーが「フルグラ」の製造工程で発生した余剰オーツ麦を提供し、「コエドビール」を展開する協同商事(埼玉県川越市)コエドブルワリーが製造販売を請け負っているという。廃棄予定の原料を用いたアップサイクル商品としても注目されているようだ。 ●ネクター風味のビール 都内のスーパーを何軒か回り、ようやく見つけた飲んでミーノは、カラフルでかわいらしいパッケージが施されている。前面にはしっかりとカルビーとコエドビールのロゴがプリントされており、陳列棚のなかでも存在感を放っていた。 早速飲んでみようとプルタブを開けると、トロピカルな甘い香りが強烈に立ち込め、一般的なピルスナータイプのビールではないことがうかがえる。 フルーティーな香りを堪能しながら口に含むと、ネクターのような甘さと、黒ビールのような苦さ、まったく方向性の違う味が同居していて面白い。柔らかな甘みとアクセントの利いた苦味が絶妙で、それでいて後味はすっきりしているので飲みやすく、すぐに缶が空いてしまった。 飲んでミーノの共同開発が始まったのは21年。カルビーが協同商事コエドブルワリーに声がけする形で始まった。 カルビーマーケティング本部 オーツ麦部ブランドディレクターの柳井秀政氏は経緯をこう振り返る。 「以前からビールを発売すれば、おつまみ需要を喚起できると感じていた。例えば、そら豆を原料にした塩気のあるスナック『miino(ミーノ)』は、ビール片手につまんでいるユーザーが多く、お酒との相性が良いことが顕著だった。そこで当社がビールを販売すれば、スナックが相乗的に売れると見ていた。 また、商品の製造工程で発生する未利用資源をビールの原料に活用できれば、未利用資源の活用にもつながる。消費者や当社だけでなく、環境にもプラスに働く、三方良しの商品を開発したいと構想していた。 そうしたタイミングで、協同商事コエドブルワリーから、オーツ麦を原料にビールを開発できると聞いた。フルグラの製造工程では、見栄えのために色味が濃いオーツ麦を弾いていることから、それを活用しようと今回のプロジェクトが発足した」 使用する原料はフルグラの余剰品だが、商品名はビールと相性のいいミーノにかかっており、パッケージに描かれている黄緑色の模様もそら豆の形をしていることが見て取れる。カルビーとしても、初めてのアルコール飲料ということで、コンセプトを分かりやすく訴求しようと商品を形作っていった。 ●前例のない協業の背景 いまでこそエシカル消費やESG(環境・社会・企業統治)経営が当たり前とされつつある時勢だが、カルビーは戦後間もない時代から、企業理念として未利用資源を活用した商品開発を推し進めてきた。 1964年発売の「かっぱえびせん」は、当時は市場に出回っていなかった瀬戸内海の小エビを有効活用した商品だった。 看板商品である「カルビーポテトチップス」も、原料である北海道産のじゃがいもは元来でんぷんの原料として重宝されていた。それをポテトチップスとして加工することで、じゃがいもにブランド価値を与えて、農家の収入も安定させようと商品化を実現した。 一方、協同商事コエドブルワリーも、カルビーと近しい企業理念を持っていた。現在はクラフトビールのイメージが強い同社だが、1970年代は川越地域を拠点として、有機野菜の卸売を専門に行っていた。そこで発生した廃棄部分を有効活用すべく、96年から始まったのがクラフトビール事業というわけだ。 両社ともに、一次産業に密接してきた歴史や、根底にある価値観が通底しているからこそ、前例のないコラボも実現したと言えるだろう。 協同商事コエドブルワリー広報の田邊真氏は、「当社としては、カルビーのような大企業とコラボするのはあまり経験がない。それでも実現したのは、企業理念や商品のストーリーに強い共感を抱いたからこそ。開発期間は3年と長かったものの、信頼してプロジェクトを進められた」と振り返る。 両社の話を聞いて興味深かったのが、パッケージのロゴを入れる位置だ。製造や販売元が協同商事コエドブルワリーにもかかわらず、カルビーのロゴが上にプリントされている。 協同商事コエドブルワリーとしては、一目見てコンセプトやコラボ商品だとわかるようカルビーのロゴを上に配置した。その一方で、カルビーとしては、販売元のロゴが下に来ていいのかが懸念材料だったという。カルビーは品証・法務部門で何度も問題がないか、確認を通したほど慎重になっていた中、協同商事コエドブルワリーはむしろ歓迎だったという開発秘話も、微笑ましいエピソードだ。