「トランプリスク」に身構える自動車業界 EVシフト、5年以上の遅れも
「新たな『AI(人工知能)・通信基盤』を構築し、モビリティーの多様な価値を生み出したい」。NTTとAIを利用した自動運転の開発で提携することを発表したトヨタ自動車の佐藤恒治社長は2024年10月、記者会見でこう強調した。 【関連画像】ソニー・ホンダモビリティが25年に先行受注を開始するアフィーラ(写真2点=竹井 俊晴) 両社はAI・通信基盤の開発に約5000億円を投じ、25年からスタートする。トヨタはソフトウエアによって車両の性能が変わる次世代車「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」の開発を急いでおり、新しいAI・通信基盤はSDVに登用される予定だ。 SDVは、ソフトによって自動運転や、映画観賞など車内のエンターテインメント関連の機能がアップデートされる自動車だ。いわゆる「クルマのスマホ化」でハードウエア(車体)だけでなく、サービスで稼ぐ新たなビジネスモデルが拡大する可能性がある。 トヨタ、NTTの提携で代表されるとおり、25年の自動車業界はSDVの開発具合や、AIの活用が注目株だ。 ●自動運転で先行する米中 世界では、電気自動車(EV)大手の米テスラが24年10月、AIを駆使したロボタクシー(無人タクシー)を公開した。「まるで移動する快適なラウンジ。スマホや映画を見たり、仕事をしたりできる」。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は会見で誇らしげに語った。ロボタクシーを支えているのはAI技術だ。AIの進化によって高額なセンサーなどを搭載せずに済む。テスラのロボタクシーは3万ドル(460万円前後)と比較的安価だ。将来的には所有者がクルマを使用しない時間に自動運転させるなどして、ライドシェアとして活用する構想もある。一方、中国ではネット大手の百度(バイドゥ)がロボタクシーを実用化しており、走行距離は1億キロを超えているとされる。こうした領域において日本勢は出遅れが指摘されている。 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の滝澤琢氏は「25年はSDV、自動運転などの領域での日本勢のアライアンスが増えるだろう」と見通す。 世界では、EVの販売に減速感が出ている。米大統領選挙でEVに否定的とされるトランプ氏が再選を果たした。BCGは、世界の新車販売に占めるEVの比率について30年は36%、35年が61%と予測している。「トランプ氏当選の影響もあり、EVシフトは当初の想定よりも5年か、それ以上遅れる」と滝澤氏は話す。 足元ではハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸びており、HV技術に強みのある日本勢に追い風だ。「25年も販売好調は続く」(三井住友DSアセットマネジメントの白木久史氏) 一方、SDVやロボタクシーの市場は中長期的に拡大することが見込まれている。富士経済(東京・中央)によると、自動運転車の生産台数は24年が4543万台となり、45年には2倍以上の9313万台となると予測。24年ではレベル2(部分運転自動化)が大半だが、45年には「レベル3(条件付き運転自動化)」以上が過半になると予想する。