『わたしの宝物』冬月との再会で困惑する美羽 静かに涙する深澤辰哉に涙腺が刺激される
「失くしたはずの大切なものが突然出てきたらどうする?」 「簡単ですよ、今度は絶対失くさないようにします」 「既に大切なものがあって、もうそれを手にすることができないとしたら?」 【写真】見つめ合う美羽(松本若菜)と宏樹(田中圭) 冬月(深澤辰哉)が生きて帰国した。そのことにたまらなく安堵しているものの、彼が日本を発つ前と現在ではあまりに状況が激変したことで困惑する美羽(松本若菜)の様子が描かれた『わたしの宝物』(フジテレビ系)第4話。 切ないのは、美羽と宏樹(田中圭)夫婦に予想もできないような激変を与えた張本人が冬月だが、その事実を彼は知る由もないこと。 冬月は美羽に会えるのを楽しみに生き抜き帰国したのに、訳もわからず突然拒絶され、さぞかし面食らったことだろう。そりゃあ何とかコンタクトを取ってその理由だけでも知りたいと思って当然だ。しかし、連絡先を入手できても応答はなく、手が届きそうで届かない歯痒い状況が続く。 美羽の方は、育児にも協力的で自分の心身の異変にも敏感に気づき、優しくケアしてくれる宏樹に罪悪感を募らせ、どうしていいかわからなくなる。神様のいたずらというやつなのか、ここまでタイミングが噛み合わないのも辛い。冬月が生きていたならば宏樹と別れて栞の血縁上の父親である冬月と一緒になるというのも一つの方法だと思うが、美羽にはその選択肢は現時点では全くなさそうだ。 あんなにモラハラみのあった宏樹がここまで別人かのような変化を遂げたのは、栞の存在が大きく、彼からそんな「新しいお守り」を取り上げることは酷に思えるのかもしれないし、何より一度“托卵”という大きな大きな決断を下したその覚悟を、今さら覆すわけにはいかないのかもしれない。さらには“母親”になって、美羽の中でも大きく判断軸が変わったのだろう。
深澤辰哉扮する冬月がいることで担保される『わたしの宝物』のピュアさ
しかしそれにしても世間は狭く、“托卵”の秘密を脅かすような包囲網が形成されつつある。冬月の同僚・莉紗(さとうほなみ)は宏樹と商談し、冬月の打ち合わせ相手は美羽の親友・真琴(恒松祐里)だった。美羽と冒頭のやり取りをした真琴は続けて言う。「新しく大切なものができたんだから、一度失くしたものにもちゃんと意味があるんですよ。だから感謝を込めてさよならしちゃいます」。この言葉に突き動かされた美羽は冬月としっかりと対峙し、自分の口で別れを告げることを決めた。 「子どもを、今の家庭を大切にしたい」と切り出されてもなお、「夏野が幸せならいいんだ(中略)夏野と出会えたこと、ほんとに神様がくれたプレゼントだって思った」と言って、お礼を伝える冬月のどこまでも嘘のない言葉が切ない。 どんな局面でも自分の想いはしっかり伝えながらも、全くそれが押し付けがましさにはならない冬月ならではのソフトさやマイルドさは、演じる深澤辰哉自身にも共通しているのだろう。冬月が美羽に背を向けて泣き顔を見せないように静かに涙する姿には、思わずこちらまで涙腺を刺激されてしまった。『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)で深澤が演じた岸くんも、相手ファーストで全く押し付けがましさがなく、見返りを求めるような節もなかった。だからこそ本作のようなタブーに斬り込む作品において、深澤扮する冬月がいることでピュアさが担保され、スキャンダラスな側面ばかりがフィーチャーされることがなくなる重要な役割を担っているのだろう。 さて、2人のさようならの抱擁を目撃していたのが真琴で、いよいよ美羽に“終わりの始まり”が到来するようだ。かねてより宏樹のことを“推し”と呼んでいた真琴に、いくら親友と言えど美羽は彼のモラハラについて打ち明けていなかっただろう。そこを知らない真琴からすれば、ただただ一方的に美羽のわがままさや傲慢さによる不義理だと思ってしまうに違いない。予告編によると、どうやら真琴が関係各所を引っ掻き回していくようで、演じる恒松祐里と美羽役の松本若菜の怪演の応酬にも期待が高まる。また異なる色味を帯び始めた本作を、ヒリヒリした想いを抱えながら見守りたい。
佳香(かこ)