<解説>サンマの価格は異常に安いのか?高いのか?「初入荷」の値段が違う理由
サンマの水揚げが近年と大きく違う理由
さて価格のことはさておき、それではなぜ水揚げが昨年、もしくは近年と大きく状況が違うのでしょうか? そこには大きく2つの理由があります。 まずこれまで、小型船から大型船といった具合に、段階的な解禁としていたサンマ漁を、8月10日に一斉に解禁したことでルールが変わったことです。このため、初日の水揚げから漁獲能力が高い大型船の水揚げが増えました。 もう一つは、漁場が近くなっていることです。漁場が港から3~4日航行するのと2日程度なのとでは、往復を考えると、漁業の効率が大きく改善され移動時間のロスが減り、魚を探したり、漁獲したりする時間を増やせるのです。 ちなみに、台湾船や中国船がサンマで日本の漁獲量を追い越した大きな要因の1つは、日本漁船の港から漁場までの往復時間のロスがあります。台湾と中国の漁船は洋上でサンマを冷凍しているので、移動によるロスが日本漁船に比べて非常に短いのです。漁場が近くなれば漁業者にとっては燃料費が削減されるだけでなく、まだ遠いですが、輸送機関が短くなれば鮮度もよくなります。
暖水塊や黒潮大蛇行はどうなったのか?
ところで、サンマの漁獲量減少の原因としてよく出てくるのが、黒潮大蛇行や北海道沖の暖水塊があります。黒潮大蛇行はなくなったのでしょうか? いいえ、そんなことはなく、引き続き続いているそうです。また暖水塊は、下図の左下のピンクの位置です。 一方でサンマの主要漁場は上図の右上の青丸の位置です。暖水塊と漁場は、もともとかなり離れているのです。水温が低いはずの青丸の漁場でも漁獲量は激減しています。 上のグラフを見ていただけるとわかるのですが、日本だけでなく、中国や台湾の漁獲量も激減しています。近年サンマが激減した問題の本質は、公海も含めたサンマの資源を規制が機能していないため乱獲で激減したことにあるのです。
一時的に増えても獲り尽くてしまう仕組み
魚の資源は数年に一度、孵化した稚魚の生き残りがよく、単年度の資源量が多くなることがあります。これを「卓越級群」と呼びます。その卓越級群の資源を大切に育て、資源を増やし、魚を獲り続けても減らない最大量を意識して漁業をしているのが、ノルウェーをはじめ水産業を成長産業にしている国々です。 上のグラフは、北海道のニシンの漁獲量推移を示しています。1980年代の半ばに一瞬だけ資源が増えて漁獲量が急増したことがわかります。しかしながら、科学的根拠に基づく漁獲枠がなく、貴重な卓越級群をつぶしてもとに戻ってしまったことが読み取れます。 サンマの場合は、上の話と少し異なり、沖合での資源調査のデータは以前の兆しはありません。このため、サンマで卓越級群が出たという話では全くありません。しかし万一、少しでも資源量が増えている兆しがあれば、それを全力で獲ってしまう今の制度を変えることが不可欠なのです。 昨年の日本の漁獲実績(2.4万トン)の5倍(11.9万)という獲り切れない現在の漁獲枠に明るい未来はありません。社会がサンマの資源に対して正しい知識をもつことがとても大切なのです。海水温上昇や外国が悪い、はたまたクジラが食べてしまうからでは、改善に向かうことはありません。 必要なのは科学的根拠に基づく正しい知識です。
片野 歩