「今こそ、インターネット上での音楽表現を見つけるべき」――サカナクション・山口一郎が考えるコロナ以降のロックバンド
「コロナ禍に優先すべきことは、ビジネスよりもリスペクト」とサカナクションの山口一郎(41)は言う。この2年、インターネットを駆使したさまざまな音楽の伝え方を実践してきた。ライブビジネスが苦境に立たされるなか、実は手応えを感じているという。山口が思い描くこれからのロックバンドのあり方とは。(文中敬称略/取材・文:内田正樹/撮影:後藤武浩/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
コロナ禍に起きた群発頭痛。インスタに救われた
サカナクションは昨年12月から今年1月にかけて2年ぶりの全国ツアーを行った。新型コロナウイルスの感染第6波の影響を受け、観客動員は「コロナ禍以前に比べてかなり減った」と山口一郎は言う。 ツアーのファイナルを飾る1月の日本武道館公演はチケット販売直後に完売したものの、感染拡大の影響から公演日を目前に多くのキャンセルが入った。 「直前にキャンセルされたチケットをすぐにリセールするのは、これまでのシステム上、難しかった。でも『それならアップデートしよう』とスタッフに提案して、キャンセル分を当日券として販売できる形を編み出してもらいました」 山口は自ら売り上げに細かく目を配り、自身のSNSからファンに向けて当日券の購入を呼び掛けた。すると「2度目のソールドアウト」が起こった。ミュージシャンが自ら「チケット余ってます」とツイートをする。勇気が要る行為にも思えるが「格好悪く見えるかもしれない」といった不安はなかったのだろうか。 「ミュージシャンがお金や赤字の話をするのはダサいと言う人もいますが、僕にはどうでもいいこと。だって当たり前の企業努力じゃないですか。本人がSNSで呼び掛けるのが効果的ならばやらない手はないでしょう」
SNSは「毒にも薬にもなるツール」と山口は語る。 「昨今、何かに感動したり、ニュースに触れたりした時、自分がどう思うかよりもまず『みんなはどう思ってるんだ?』と他人の感想を気にする人が増えたように思う。2011年の震災の時もそうでしたが、コロナ禍でより意見が一定方向に流れやすくなった。そこに恐怖も覚えたし、卑屈になってしまう場面もありました」 「その作品をどんな人が作っているのか。特にコロナ禍になってから、より“作品”と“人”が結び付けられ、清廉潔白といった誠実性が過剰に求められるようになりました。でもそれってミュージシャンにとってはかなりの矛盾で。だって音楽を仕事にしようと思ってる時点で、まともではないんですよ(笑)。まともじゃないからこそ、その人の濁りや揺れ、不安や悲しみが表現のエネルギーになる」 「でも注目を浴びた瞬間、SNSの構造に巻き込まれ、時には過去もほじくり返される。何をしてもいいという意味ではなく、タレントやミュージシャンが政治家と同じ土俵に並べられるのはちょっと厳しいなという思いもあります」