「アルツハイマー病発症」の原因が「腸」にもあるなんて…「短鎖脂肪酸」が「神経細胞」に与える「意外すぎる影響」
腸内マイクロバイオータとアルツハイマー病
ヒトで見られるアルツハイマー型認知症の症状をマウスで引き起こすためには、アルツハイマー型認知症の発症に関連するヒトの遺伝子をマウスの遺伝子と入れ替える必要があります。具体的には、ニューロンにタウタンパク質が異常に蓄積するヒト由来の遺伝子変異(タウ遺伝子変異体)とヒト由来のアポE4遺伝子の2つを、マウスがもともと保有しているタウ遺伝子とアポE4遺伝子と入れ替えたマウス(TE4マウス)が作出されました。このTE4マウスは、加齢によってタウタンパク質がニューロンに異常に蓄積し、アルツハイマー型認知症を自然に発症します。 これまでの研究から、認知症の発症により腸内マイクロバイオータの組成が大きく変化することが明らかになっていました。そこでこのTE4マウスの腸内マイクロバイオータの組成を変化させた際、ニューロンにタウタンパク質の蓄積が起こるのかどうかについて解析が行われました。 驚いたことに、TE4マウスを無菌状態、つまり腸内マイクロバイオータが存在しない条件で飼育したところ(無菌TE4マウス)、ニューロンへのタウタンパク質の蓄積が抑えられ、アルツハイマー型認知症の発症が通常よりも遅くなりました。一方で、無菌TE4マウスに正常マウスの腸内マイクロバイオータを移植すると、ニューロンにタウタンパク質が蓄積するようになり、アルツハイマー型認知症の発症が通常よりも早まったのです。 腸内マイクロバイオータが腸内に存在することでアルツハイマー型認知症を発症するまでの時間が短くなったということは、腸内マイクロバイオータによって産生される何らかの腸内代謝物とアポE4が相互作用することで、ニューロンへのタウタンパク質の蓄積が促され、アルツハイマー型認知症を引き起こしていることを示します。逆にいえば、アポE4遺伝子をたとえ保有していたとしても、ニューロンへのタウタンパク質の蓄積を引き起こす腸内マイクロバイオータや腸内代謝物を同定さえできれば、アルツハイマー型認知症の発症を抑えることが可能になるかもしれないということです。