村民の力で蘇った昭和のボンネットバス! 熊本県・山江村の宝物マロン号がロマンの塊だった
村民の手で蘇ったボンネットバスが現存
あらゆる技術が発展してきた現代の日本。自動車の世界でも便利な機能が次々に開発され、標準装備されるようになった。いまを生きる若い世代の人には当たり前のように感じているパワーステアリングやパワーウインドウ、集中ドアロックやリモコンキー、オートマなども、昭和の中期では贅沢装備だったのである。 【写真】雰囲気めっちゃいい! マロン号の車内に潜入 それだけ便利な世のなかになったにもかかわらず、なぜか昭和の時代へと想いを馳せてしまう人は少なくない。自動車の世界でも、昭和時代の旧車を好んで所有する愛好家たちが数多く存在している。乗用車はもちろんのこと、昭和のトラックやバスをこよなく愛するマニアも全国各地に存在しているのだ。 そんななか、ここでは熊本県で活躍する昭和39年式のボンネットバスに注目してみたい。現代ではキャブオーバータイプのバスが一般的となっているが、大正や昭和の時代では、エンジンルームが車体前部のボンネットに収められたものが主流だった。その形状からボンネットバスという呼称が後年になって付けられたのだが、昭和の時代を支えてくれたボンネットバスが現役を勇退後、美しく復元されているのである。 その所有者は個人や企業ではなく、なんと熊本県の山江村役場。人口3200人ほどの小さな村を束ねる山江村役場の敷地内に、村民の手で蘇ったボンネットバスが現存しているのだ。 ただでさえ珍しいボンネットバスでありながら、何かとお堅いイメージがつきまとうお役所が所有するという、そんなとてもレアな個体に密着してみたいと思う。
ベースは昭和39年式のいすゞBXD30!
ベースとなっているのは、昭和39年式のいすゞBXD30。松本車体製作所で製造され、九州産交バスの乗り合いバスとして活躍したのち、昭和53年に山江村へと寄贈された。 以降は山江養魚場で保管展示されていたのだが、平成4年に「蘇らせて走らせたい」という声が村民から立ち上がり、同年に会員12名で「ボンネットバスを走らせよう会」を結成。そこからレストアされ、自力走行を可能とした。平成5年には新規ナンバープレートを取得し、平成17年には産業遺産に認定されたという、輝かしき経歴を歩んできたのである。 美しく蘇ったボンネットバスは、山江村の名産品である極上の和栗「やまえ栗」から「マロン号」と名付けられ、現在ではイベントなどの際に活躍している。平成22年にはボンネットバスの形状をした専用の車庫が建てられ、大切に保管されているという「マロン号」は名実ともに山江村の宝物であり、愛情満載のボンネットバスであることが存分にうかがえる。 そんな車庫にはレストアの様子や車体の資料などもわかりやすく展示されているため、熊本県を訪れた際にはぜひとも山江村に立ち寄っていただきたい。 定員50名(当時)を誇るバスでありながら、もちろんエアコンやパワーステアリングなどは装備されていない。車内は鉄板むき出しで、フロアは木製というとにかくシンプルな仕上がりとなっている。心臓部分は6気筒の130馬力で、総排気量は6373cc。現在では非力に思えてしまうが、当時は住民たちの心強い足となり、力強く駆けまわっていた。装備はもとより、きっと乗り心地も良くなかったことだろう。もちろん、それは現代のバスと比較してのこと。当時ではそれが当たり前だったため、不便さや非力さなど問題視されていなかったことだろう。 便利さや快適さと引き換えに失ってしまった、昭和時代の美学。ときには、そんな当時に触れてみることをお勧めしたい。そうすることで、恵まれた時代を生きていることへのありがたみを、より一層感じることができるにちがいない。 ※「トラック魂」2024年夏号・Vol.127より抜粋 ※取材協力:熊本県山江村役場企画調整課・商工観光係
トラック魂編集部