「ミリ波対応スマホ」の値引き規制緩和で感じた疑問 スマホ購入の決め手にはならず?
総務省は、5G通信の「ミリ波」に対応する端末の値引きを6万500円(税込み、以下同)まで緩和する方向を打ち出している。 日本でのミリ波端末普及のカギを握るスマホ 現状の回線契約における値引きの上限は、2023年12月の電気通信事業法改正以降は4万4000円に設定されている。しかしミリ波対応端末は、1万6500円上乗せした6万500円までの値引きを可能にすべく、電気通信事業法の施行規則を改正する方向で議論が進んでいる。今回は、このミリ波端末の値引き規制緩和が市場に与える影響を考えたい。
ミリ波対応端末は市場にどれだけ存在しているのか
ミリ波とは携帯電話の場合、28GHz帯の電波を用いて通信するもので、通信バンドはn257が日本では使われている。6GHz帯未満のSub6よりも高い周波数で通信するため、高速かつ低遅延、大容量の通信が行える。一方で、エリアが面ではなく点の状態のため、通信できるエリアが非常に限られている。 そんな規制緩和の背景には「ミリ波対応端末の普及促進」がある。今後のトラフィック量の増加や6Gのことも踏まえると、ミリ波への対応は避けて通れないだろう。 現時点のミリ波対応端末は通常の機種と比較してアンテナ設計が難しく、開発費もかかることから市場価格も高価になっている。これを理由に以前から通信キャリアやチップメーカーから「ミリ波対応端末」に対して値引き規制を緩和するといった内容の意見が出ており、これに総務省側が応える形となった。 では、ミリ波対応端末はどの程度普及しているのだろうか。調査会社MM総研が2024年2月に発表した国内携帯電話端末の出荷台数調査(2023年通期)を確認すると、ミリ波対応端末は出荷台数ベースで5.2%と推計されている。 2023年はGalaxyのハイエンドモデルに加え、直販でもGoogle Pixel 8 Proが対応したことで、ミリ波に対応した機種が多かった。それでもこの数字ということを踏まえると、いかに消費者にミリ波対応端末が行き渡っていないかがうかがえる。 ミリ波対応端末は日本で5Gサービスが開始した2020年から登場しているが、対応機種は少ない。毎年数多くの機種が販売される日本市場でも、価格が高価になることなどを理由にミリ波対応端末は年間でも片手で数えられる程度の機種しか出ていない。今まで販売された機種を合算しても20機種ほどしかない。 これを踏まえて、2024年4月以降に発売されたミリ波対応端末は以下の通り。 サムスン電子 ・Galaxy S24 Ultra ・Galaxy Z Fold6 ソニー ・Xperia 1 VI(※Xperia 1 VIのソニーストア直販版はミリ波非対応) Google ・Pixel 9 Pro Fold 記事執筆時点で、2024年度に発売されたミリ波対応端末は4機種にとどまっており、決して多いとはいえない。価格も20万円を上回る高価な機種が多い。消費者に多く手に取ってもらう端末は10万円前後の価格帯が多いことを踏まえると、普及には程遠いと感じてしまう。もちろん、高価な端末に対して値引き上限を緩和することで、以前よりも購入しやすくなる点はうれしい。 端末数が少ない背景には、為替相場などを理由に、端末価格を考慮した結果、「ミリ波対応を見送った」とも考えられる。例えば、旧モデルのGalaxy S23やGoogle Pixel 8 Proがミリ波に対応していたのに対し、Galaxy S24、Google Pixel 9 Pro/Pro XLではミリ波に対応していない。 このため、ミリ波対応端末は継続的に販売されるものではなく、為替状況や端末コストなどを踏まえてメーカーはもちろん、通信キャリアの要望に合わせて対応可否が決まると考えたい。現に米国向けのiPhoneやPixelは現地キャリアの要望もあって、ミリ波対応のハードウェアで出荷されている。