相次ぐ「最低賃金1500円」公約、現実的な方策は聞こえず…「しわ寄せは中小・零細に」
衆院選では多くの政党が最低賃金の引き上げを公約に掲げ、「1500円」がスタンダードのように扱われている。ただ、現状の1・4倍以上という高いハードルをどのように飛び越えるのか、現実的な方策は聞こえてこない。(秋田穣、岡田実優)
日本経済を支える中小企業がひしめく埼玉県川口市。護衛艦の部品などを作る鋳物製造業「石川金属機工」の石川義明社長(72)は、ため息をつく。
原材料の調達価格は、2020年に比べ銅は2倍超、スズが約4倍に跳ね上がった。高騰分の上乗せについては理解が進み、取引先と交渉しやすくなったが、十分ではない。さらに人件費分の価格転嫁を求めても、交渉に応じてもらえないケースが多いという。
業績は厳しいが、物価高に直面する従業員約50人の生活を守ろうと、23、24年と2年連続で賃上げに踏み切った。だが来年以降も続けられるのか、不安は募る。最低賃金の引き上げペースが加速すれば、自社の賃上げにも響くからだ。
石川社長は「最低賃金の急上昇でしわ寄せが来るのは中小・零細企業。人件費を含め、適正な価格転嫁が実現するよう、政府には大手企業への指導を徹底してほしい」と訴える。
「30年代半ば」の目標前倒し
物価高を反映し、最低賃金の全国平均は23年度に初めて1000円を突破した。岸田前首相が「30年代半ばまでに1500円を目指す」との目標を示したこともあり、24年度は1055円と前年より5・1%も上昇した。
与党は衆院選公約で、政府目標の前倒しを掲げた。自民党公約は「最低賃金引き上げの加速」との表現だが、石破首相は「20年代に1500円」と表明しており、公明党は「5年以内」の達成を目指す。
野党も、政府目標を意識した公約を並べた。立憲民主党は、適切な価格転嫁による底上げで「1500円以上」を、共産党は「1500円以上」としたうえで都道府県ごとに最低賃金が決まる仕組みから、全国一律制にして地域格差をなくすと訴える。れいわ新選組と社民党は、全国一律1500円を主張している。