人気YouTuber精神科医と依存症専門医が明かす「心の病と依存症の“回復への近道”」
目的が入れ替わってしまったら依存症
山下 卵が先かニワトリが先かではないですが、仕事や人間関係のストレスからお酒やギャンブルに依存する人もいれば、お酒やギャンブルに依存した結果、仕事や人間関係が立ち行かなくなる人もいます。気分が落ち込んでいると、何かに依存しやすくなりますし、一方で、依存的な行為をやめると、気分が落ち込む人もいます。 益田 物事に向き合いすぎた反動で病的なところまで落ち込んでしまい、気分の解放を求めた結果、依存物質にハマってしまうこともある。本来であれば、運動などといった建設的な解放が望ましいのですが、手っ取り早い解放を求めてお酒やドラッグ、ギャンブルといった、インスタントな行為に依存してしまう。 山下 不安だからお酒を飲んでいたのに、気がつくとお酒を飲まないと不安になっている。お金が欲しいからギャンブルをしているはずなのに、ギャンブルをするために金策に走る。目的が入れ替わってしまったら、依存症という病気になっていると自覚してほしい。 益田 アルコールなどは自我を肥大化させていきます。自分の身体と対話をしないまま、根拠のない自信をつけてしまう。ゲーム依存にもいえることですが、できるだけ身体は動かしたほうがいいでしょう。 山下 やはり運動をすると、何かに依存しなくても爽快な気分を手に入れることができるので、大きな効果が期待できますよね。僕のクリニックはジムを併設していて、患者さんに運動を取り入れた回復プログラムを提供しています。
「明日何をするか」
益田 それは大切ですね。一方で、メンタルケアやメンタルトレーニングでは、自分のことを振り返るといったプロセスが効果的なのですが、どこを起点としていいか、なかなか難しいとされています。 それについて、僕はおじいちゃん、おばあちゃんの生い立ちから書き出してくださいと伝えている。アメリカの精神療法は“自分”に軸が置かれているのですが、日本では、心の病は家族とセットになっているところがある。客観的に自分を見つめるために、おじいちゃん、おばあちゃんくらいからさかのぼるのがいいと思うんですね。 山下 それはたしかに客観的な情報を集めやすそうです。僕の場合、よくすすめているのは、「明日何をするか」を考えることです。過去は変えられないし、未来はどうなるかわからない。直近の明日をいい一日にするために行動しよう、と。それを理想の1か月や1年……というように続けていくのがよい継続になるのだと考えています。 益田 僕が考える精神科の治療は三本柱です。一つ目が薬物療法、二つ目がカウンセリングや精神療法、三つ目が福祉導入や環境調整。中でも、カウンセリングは患者さん自身の成長の場になる。 単にわれわれが対話をして癒す場ではなく、患者さんが学習するサポートを行う場です。いちばん効果的なのは、患者さん自身が治療者側に回ること。ケアサポーターなどで誰かを教えてあげると学習効果が高いし、成長できます。 山下 人は、「自分で気がついたこと」に大きな価値を見いだすという習性を持っていますからね。 益田 そうですね。ですから、学んでいくという環境をいかにつくっていくかもとても大事です。それこそ山下先生の今回の著書は、患者さんの家族にとっても大きなヒントになると思いますよ。