「難民支援、日本の立ち位置は強みに」UNHCR駐日代表、伊藤礼樹氏インタビュー
世界の主要な紛争地などで30年以上、難民支援に当たってきた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表の伊藤礼樹(あやき)氏(57)が、産経新聞の単独インタビューに応じた。国際秩序の変化に伴い難民を巡る状況が急変する中、「ただ『守る』というだけでは解決できず、どれだけ理想と現実を近づけるかだ」と指摘。「日本の世界的にユニークな立ち位置を生かすべきだ」とも提言した。 【写真】「世界でユニークな立場にある強みを日本は発揮できる」UNHCR駐日代表の伊藤礼樹氏 --難民支援を志したきっかけは 「大学院修了後、内定企業に就職するまで時間があり、国連ボランティアとして紛争中のボスニア・ヘルツェゴビナに入った。その際、現地で民兵に追われる50人ほどの集団に遭遇した。安全な場所まで送りたいと考えたが、民兵は『女性と子供以外は置いていけ』という。一人でも多くを救うため言い分を飲まざるを得ず、苦渋の決断だった。その後、内定を辞退し、この世界に入った」 --難民支援の実情は 「命からがら祖国から逃れた人に、帰れとはいえない。難民の権利を認めるという原則はあり、『難民を守れ』というのは簡単だ。ただ、現実にはさまざまな理由で100%守られていない。われわれの仕事は、現実をどれだけ理想に近付けるかだ」 --シリアや隣国レバノンにも駐在した 「アサド政権のシリア、人口の4分の1にあたる150万人のシリア難民を受け入れたレバノンは難民の帰還を求めていたが、欧米諸国は大規模な帰還はアサド政権を正当化するとして反対していた。難民には徹底して意向を聞き取り、帰還後もケアする一方、西側諸国やレバノン、シリアの複数の部署と密に接触し(両国の)建前と本音を見極めながら、難民の保護につなげた」 --国際秩序の変化は難民にどう影響したか 「それまで20年ほど横ばいだった難民や国内避難民は(シリア内戦が起こった)2011年以降に増え続け、1億人を超えた。グローバルサウスの台頭で西側諸国の比較優位が弱まって国際社会の足並みがそろわず、問題解決が長引くようになった。元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんが言っていた『人道問題に人道的解決はない(難民問題には根本的原因の政治的解決が必要である)』という事態が生じている」 --欧州における反難民、反移民の動きをどうみるか