「地震翌日から強盗が」 今語られる能登震災の全容 復興は道半ばも「能登の人は強い」
追い打ちをかけた豪雨被害「なぜ能登ばかりこんなひどい目に」
震災からまもなく10か月という9月下旬には、豪雨被害に見舞われ、15人が亡くなった。当日、役場職員として住民の避難誘導にあたっていた道下さんが振り返る。 「なぜ能登ばかりこんなひどい目に……という絶望感しかありませんでした。やっと復旧から復興へ向かおうとしていた矢先、追い打ちをかけるような出来事で、住民の皆さんも心身ともに大きなダメージを負っています。それでも能登に住み続けたい、戻ってきたいと思っている住民のために行政は何をすべきなのか、自分は何ができるのかと」 復興は道半ばだが、支援や報道は目に見えて減少している。現状を知ってほしい、風化させてほしくないという思いの反面、複雑な感情もあるという。 「県外はもちろん、同じ石川県内でも温度差はある。金沢ですら、能登の地震は過去のものになりつつあります。一方で、ニュースで何が伝わるのかという思いもある。危機感をあおったり、悲壮感にあふれた報道をしてほしいわけでもない」(森さん) 今、何を伝えたいのか。2人の本心を探る中で、ふいに森さんが「そういえば、今年の祭りはどうなりますか?」と道下さんに問いかけた。年間で大小173もの祭礼が行われる伝統の能登キリコ祭り。今年の開催は地区によって対応が分かれるが、道下さんの松波地区では「“やめる”ことはやめよう」を合言葉に、規模を縮小しての開催に至った。 「コロナで数年取りやめになり、ようやくというタイミング。祭りの運営は大変だし、時間もお金もかかる。もともと負担になっていた部分もあって、何が祭りだ、不謹慎だという声ももちろんあった。何が正しいのか手探りの状況ですが、それでも今できることを、前を向いてやっていきたいなと」(道下さん) 喪中のため、祭りそのものへの参加は見合わせた森さんが言葉を継ぐ。 「自分の町のことを分かった気になっていたけど、今回の震災ではっきりした。能登の人は強いですよ。悪いことばかりではなく、震災がなければなかった出会いもたくさんあった。日本人も捨てたもんじゃないと本気で思いました。ボランティアじゃないと……とか、お金を落とさなきゃ……なんて思う必要は全くない。人が来るだけで町にとってはにぎやかしになります。復興はまだ全然進んでないですけど、能登の人の力強さ、たくましさをぜひ見に来てほしい。被災地だと思ってくると意外な姿を見られると思う」 失った痛みは計り知れないが、能登は少しずつ前に進み始めている。
佐藤佑輔