世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.130「25歳とタイトルを争った43歳・中須賀克行の凄さ」
最終戦の最終レースで勝ったほうがチャンピオンだった
タイトル争いといえば、全日本ロードの最高峰、JSB1000クラスも劇的な形でチャンピオンが決まりました。10月26日に鈴鹿サーキットで行われたレース1の結果、ヤマハファクトリーの中須賀克行くんと岡本裕生くんが完全に同ポイントに。翌27日のレース2で先にチェッカーを受けた方がチャンピオン、という緊迫の展開になりました。 ──レース1で#2岡本裕生が2位、#1中須賀克行は3位となった結果、同点首位でレース2に臨むことに。
そしてレース2は、終盤にセーフティーカーが入り、各ライダーの間隔がギュッと詰まります。そしてセーフティーカーが抜けた直後、1コーナーで中須賀くんが転倒! 3位でチェッカーを受けた岡本くんが、初のチャンピオンを獲得しました。中須賀くんとしては、チャンピオンを取るために戦っているわけですから、あのチャンスを逃すわけには行かなかったでしょうね。 今シーズンの岡本くんは、速さに自信を加えて、特にシーズン終盤にかけては非常に力強いレースをしていました。チャンピオンにふさわしい走りだったと思います。JSB1000にステップアップして3年目の、素晴らしい快挙でした。 それにしても、25歳の岡本くんに対して、中須賀くんは43歳ですよ! 年の差、18。若くて勢いのある岡本くんを相手に、よくぞここまでハイレベルな戦いを続けたものだと、感動してしまいます。32歳で引退した僕には、ちょっと考えられません(笑)。 今年54歳になった僕はつくづく思うのですが、人間、老いには決して勝てません。特にライディングに影響してくるのは、目と反射神経です。僕は40歳ぐらいで老眼を自覚しました。中須賀くんが老眼かどうかは今度聞いてみるとして(笑)、若い頃と同じはずはないんです。 それなのに、全日本のトップカテゴリーで頂点を争い続けているんですよ?「普段からどれだけ努力をしているんだろう……」と、本当に頭が下がります。恐らく岡本くんがチャンピオン獲得のために10の努力をしていたとしたら、中須賀くんは20や30の努力をする必要があったはずなんです。 それがどれだけつらいことか、僕にはよく分かります。レースはほんの数10分ですが、そこに至るまでの準備がすべて。皆さんに見えないところでどれだけ努力しているかに尽きるわけです。中須賀くんが今年もタイトル争いをして、敗れたものの、「まだまだ自分は成長できる」とコメントしているのを聞き、つくづくすごいと改めて思いました。 そして彼の本当のすごさは、チームメイトであり最大のライバルである岡本くんに、すべてを惜しみなくさらけ出していることです。これは監督の(吉川)和多留くんに聞いたのですが、中須賀くんは本当にすべてを岡本くんに教えていたとのこと。そのうえで、自分にはさらに成長の余地があるって、どれだけすごいんだか……。 ──後輩に全てをさらけ出しながら勝利に挑む。