展望・自民総裁選(2) 「刷新感」競争の先にあるものは
島田 敏男
今回の自民党総裁選の特徴は、「次の選挙で大敗して野党になるのだけは御免だ」という危機感が党内に蔓延(まんえん)する中で行われる点だ。衆議院議員の任期満了が1年余り後(2025年10月30日)に迫り、それより早いであろう総選挙の壁を乗り越えるためには「刷新」が必要という党内の切迫した気分。これが総裁選という舞台全体の背景に描かれているように見える。
政治とカネの問題で旧態依然たる姿をさらけ出した自民党が、政権政党として延命を図るには表紙を替えるのが手っ取り早い。「なんで俺が辞めなきゃいけないんだ」と側近に漏らしたという岸田文雄首相も、表紙の顔を替えて生きながらえてきた自民党の伝統には逆らえず、8月14日の総裁選不出馬表明となった。もちろん最終的に不出馬を決意した時点では、今後の党内での影響力を残すためには今が潮時だという打算を自らに言い聞かせたことは容易に想像できる。
上位2人の決選投票は必至
現在の自民党の議席占有率は、衆議院で55%、参議院では46%である。参議院では連立政権を支える公明党の助けが無ければ立ちいかない状況で、衆議院でも50%割れということになれば「公明党=生命維持装置」にすがる瀕死の状態に陥る。 これを打開するための総裁選が、旧来の派閥のしばりが極めて弱くなった中で行われる。派閥の合従連衡で総裁が決まってきたのが自民党の歴史だ。それがパーティー券裏金事件に端を発した政治とカネの問題で表向き派閥解消が進み、いわば「箍(たが)が外れて」候補者乱立の様相となった。 総裁選の1回目投票は党所属国会議員票367と全国の党員・党友の投票結果を基に分配する算定票367を合わせ、総計734票で争われる。過半数を獲得すれば当選だが、だれも過半数に至らない時は上位2人で決選投票。今回は平成以降では例のない乱立状況で、決選投票に持ち込まれるのは必至だ。
「進次郎はよくできた子役」と安倍氏
報道各社の世論調査などをもとに自民党支持者の動向を分析すると、刷新を世代交代ととらえる人たちが小泉進次郎元環境相を強く推す。これに続いて「刷新感でなく本当の刷新を」と訴える石破茂元幹事長を推す大きな流れも存在する。小泉氏同様に世代交代を印象付ける小林鷹之元経済安全保障担当相はいち早く立候補表明に臨んだが、支える若手議員に旧安倍派が多く「裏金問題の隠れみの」の烙印(らくいん)を押された感がある。 週刊誌報道の中にはこうした調査分析の傾向をとらえた先物買いで「小泉新総理・総裁で総選挙に臨めば自民党議席はこうなる」と大胆予測するものもあり、小泉進次郎優勢が独り歩きしている。 しかし進次郎氏に対する評価は自民党内でもさまざま。「素直でよく勉強している」という声もあれば、「思慮深さに欠けている点は相変わらず」という声もある。ネット上では、総裁選出馬が取りざたされ始めた頃から「小泉進次郎迷言集」といった類のページが増殖している。 霞が関の現役幹部やOBの間では、政界のサラブレッドではあっても43歳の若さに危うさを感じる向きが少なくない。「“チーム小泉”が盤石ならば何とか総理・総裁が勤まるかもしれない。ただ、短命を覚悟しなくてはならないだろう」という冷ややかな見方も出回っている。父・純一郎元首相が、郵政民営化を実現するために敵を定めて攻撃する手法を駆使し、長期政権を築いたような政治家としての胆力を会得しているとは言えそうもない。 進次郎氏のある取り巻き議員は、「後見人と目されている菅義偉前首相が“チーム小泉”を授けてくれるから大丈夫だ」と言うが、自らの力でチームを作ることができるかどうかも未知数である点に全国の党員たちがどういう反応を示すかが鍵だ。 安倍晋三元首相は進次郎氏を重用していたが、首相在任中の後半に「進次郎は周りの大人が期待するセリフを上手にしゃべる、よくできた子役。だが、一人前の役者になるにはまだまだ修行が足りない。もっと勉強しなくちゃ」と厳しい評価を周辺に漏らしていた。安倍氏が凶弾に倒れて早2年が過ぎた。進次郎氏はどこまで成長したかが厳しく問われるだろう。