展望・自民総裁選(2) 「刷新感」競争の先にあるものは
ベテラン石破氏の「弱点」
一方の石破茂氏。過去4回総裁選に出たベテランだが、5回目の挑戦で総裁の椅子を勝ち取ることができるかどうかというとそう簡単ではない。2012年の総裁選で第1回投票で党員算定票に支えられてトップに立っていたのに、決選投票で安倍氏の前に涙を飲んだ時の記憶がよみがえる。 石破氏の弱点として「国会議員仲間との付き合いが悪く、友だちを作るのが下手」ということがよく言われる。本人は「永田町周辺で議員同士が飲み食いしても日本のことは分からない」というのが持論で、替わりに全国各地から依頼が舞い込む地方議会選挙の応援や講演活動などには他に例を見ない熱心さで取り組んでいる。 つまり国会議員同士の人間関係作りへの関心が希薄だということになる。かつて自らの派閥=水月会を率いたことがあったが、次第にメンバーが抜けていった。抜けた閣僚経験者の一人は「頼みごとをされたので手伝ってあげたのに、『ありがとう、食事でもしよう』という普通ならあるはずの言葉がなかった」と石破氏の情の薄さを指摘する。 石破氏自身はそうした声があることは百も承知だが、料亭などでの饗応とか接待という自民党の伝統的政治文化に距離を置くことも「刷新」の要素だと考えている節がある。今更「食事でもしよう」と自民党議員に言ってみても手遅れだが、批判や揶揄(やゆ)を跳ね返すために自らの信念をどう表現して見せるかも国民にとっては注目点だ。
減点要素満載の各候補
では、この2人の他に決戦投票に勝ち進む可能性があるとすれば誰だろう。幹事長を務めてきた茂木敏充氏は立候補表明にあたって、先の政治資金規正法の改正で検討事項として残した政策活動費を廃止すると明言した。自民党の場合、政策活動費の配分は幹事長の専権事項で、これが党内掌握の大きなツールになってきた。 それを廃止すると明言したのはなぜか。現在の党則では幹事長は3年までとされているので、今年11月で3年になる茂木氏が幹事長を続けることはない。従って「後の人はひとつ宜しく」と言い放って改革の印象付けに用いたとみる向きも少なくない。同じ旧茂木派から加藤勝信元官房長官も名乗りを上げたことで、影響力が削がれる面も否めない。 河野太郎デジタル大臣は派閥解消を拒んできた麻生派の支援を受けているが、一本足打法の感がある。マイナンバーカードと健康保険証の紐づけで拙速な対応をした一件がしこりとなり、全国的な支持の広がりに欠けている。 初の女性総理・総裁を目指す高市早苗経済安全保障担当相はどうか。岸田氏に挑んだ2021年の総裁選では安倍元首相という後ろ盾があり3位につけた実績がある。しかし安倍氏はもういない。確かに女性の進出を求める議員や党員は少なくない。だが今回、上川陽子外相の参戦ということになれば、そうした期待を抱く票を分け合う可能性がある。保守勢力の受け皿を自認する高市氏だが、小林鷹之氏も政策的には類似の主張を展開すると見られ、2位への浮上は簡単ではなさそうだ。 こうして見てくると、上位に名を連ねそうな候補者も減点要素が満載だ。現在の衆議院の勢力の下では、新しい自民党総裁が次の首相になることは間違いない。総裁選の結果で党内抗争が起きれば話は別だが、今の自民党内にそのエネルギーはない。 9月27日の投票日まで続く自民党というコップの中での論戦に注目しながら、その先の日本を託すにふさわしい人材がいるかどうかを厳しく見極めたい。
【Profile】
島田 敏男 政治ジャーナリスト、元NHK解説副委員長。1959年甲府市生まれ。中央大学法学部卒業。1981年、NHKに入局。政治部デスク、首相官邸キャップ、解説委員、名古屋放送局長などを歴任。2006年より12 年間にわたって「日曜討論」キャスターを務めた。24年3月にNHKを退職。現在、順天堂大学国際教養学部で非常勤講師として「政治ジャーナリズム論」を担当している。