【北極で強まる米国VS中国・ロシア】ウクライナ侵攻後に強まる露中協力に高まる懸念
ノルウェー防衛研究所のベッケヴォルドとヒルデが、Foreign Policy誌(電子版)掲載の論説‘The New U.S. Arctic Strategy Is Wrong to Focus on China’で、7月に発表された米国防総省の最新の北極戦略について、北極における中国の脅威を過度に強調し、ロシアの脅威を軽視するという過ちを犯している、と論じている。概要は以下のとおり。 7月に発表された米国国防総省の最新の北極戦略は、中国を同地域における米国の国益に対する主要な挑戦であると位置付けている。国防総省が北極圏への取り組みにおいて、中国を公式に最前線かつ中心に据えたのは今回が初めてである。 第1次トランプ政権下の2019年版でも、中国は重要な位置づけが与えられていたが、メインではなかった。これに対し24年戦略は、世界中で米国の国家安全保障に対する最大の挑戦という中国の位置づけを反映したものになっている。第2次トランプ政権ではこの政策が継続、あるいはさらに加速する可能性が高い。 米国の戦略的思考や政策において中国は特別の位置を占めている。しかし、中国は米国の国家安全保障全般にとっての課題であるものの、米国の利益を脅かす中国の力と能力は地域によって異なる。国防総省が北極戦略で米中対立に重点を置くことには、2つの潜在的な落とし穴がある。 第一に、北極圏における米国の利益に対する主な脅威として中国を位置づけることで、今回の新戦略は、北極圏における中国の実際の脅威について、やや歪められた説明を増幅させかねない。現実には、北極圏における中国の政治・経済・軍事的影響力は非常に限定的だ。 中国は北極地域を「グローバルコモンズ」に仕立てようとしているが、北極では国連海洋法条約(UNCLOS)が各国の主権主張の根拠として機能しており、統治体制の中核となっている。北京が二国間チャネルを利用して影響力を強める能力も限られている。北極評議会のメンバー8カ国のうち既に7カ国が北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、彼らはいずれも中国の接近をますます警戒している。 中国は、ノルウェー、アイスランド、グリーンランド等への投資にも失敗している。軍事活動に関しても、中国は北極圏に短時間訪問する以上の軍事的プレゼンスを有していない。中国が北極圏で軍事的役割を果たすには、砕氷船や沿岸警備隊の船が数隻あるだけでは不十分だろう。 第二の潜在的な落とし穴は、北極の安定に対する挑戦の中核的存在であるロシアを軽視するリスクである。この地域で中国が地位を高められるか否かは、最大の北極国であるロシアの意思に完全に依存している。 この地域で最も重要な部分は明らかに欧州北極圏である。コラ半島にはロシア北洋艦隊の基地があり、核兵器搭載戦略原潜の多くが配備されている。