発達障害と診断された日、妻は「ゴメン」と言った 危機を乗り越えた夫婦が、漫画で描くリアルな日常 作品で伝えたい「感謝」とは
毎回2人でディスカッションをしながら、ネタ出しをして、ストーリーは主にナナトさんが構成。キャラクターは手分けして描いており「半分ずつ違うこともある(笑)」という。亀山さんは「僕はぐずぐずと考え過ぎてしまうが、妻はすぱっと決断できる」と話す。足りないところを補い合いながらの共同作業だ。 作品中の知花と悟の関係は決して一方的ではない。そんな夫婦の関係性を象徴する悟のせりふがある。 〈(知花は)確かに変だ。でも僕は変でいいと思う。僕だって大した人間じゃない。お互いさまなんだ〉 ▽先入観が邪魔になる場合も…その人との関係をうまく構築できればいい 10月上旬、発達障害当事者協会(東京)が主催するフォーラムが名古屋市で開かれた。各地の当事者団体が集まり、職場や学校など、さまざまな場面での苦労を分かち合った。ナナトさん、亀山さん夫妻も登壇。ナナトさんは「私の人生の大半はぼろぼろだったけれど、主人のような理解者が現れ、6歳から夢見ていた漫画家になることができた。今つらい人はたくさんいると思うけれど、この先の人生もずっとつらいとは限らない」と語った。
夫妻へのインタビューは、その1週間後に東京都内で行った。記者が「作品で最も表現したかったことは何ですか?」と尋ねると、ナナトさんは「感謝」と答えた。 「発達障害といっても一人一人は全然違う。その人に合った環境や人に出会えれば、生きやすくなる。私は障害がある自分に寄り添ってくれる人の存在にすごく感謝している。知花の悟への思いもそう。『障害ってこうなんですよ。だから理解してください』って言うと、なんか重たいし、相手も分かっていないことを責められているような気がしてしまうと思うんです。ほら、よくトイレにあるじゃないですか。『きれいに使ってくれてありがとう』って。自然と世の中に広まっていくとしたら、あの方法じゃないかな」 発達障害という言葉は最近、広く知られるようになった。しかし、亀山さんは、忘れてはならない大切な視点も教えてくれた。 「障害の特性に関する知識は助けになりますが、先入観が邪魔になる場合もあります。自閉スペクトラム症(ASD)とか、注意欠如・多動症(ADHD)とか、こういう人だよねというのは、やっぱりステレオタイプなんです。要はその人としっかり付き合ってみて、関係をうまく構築できればいいだけの話だと思います」