ひとり暮らしの高齢者を狙って「無能力者」とみなす…成年後見制度の大問題は、家庭裁判所と自治体の勝手な運用にある
前編から続く:成年後見制度を使って認知症高齢者から巨額資産を横領し、ギャンブルに費やした「悪徳司法書士」の告白…「一気におカネを取った」 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お知らせ”
10億円以上の資産価値
叔父、叔母の一家は、品川駅近くで戦後、約70年間、酒屋兼居酒屋を営んできた。開業したのは叔父、叔母の両親、つまりSさんの祖父母だ。 「祖父母には子供が6人いました。長男が8年前に亡くなった私の父。父と次男は家を出て結婚しましたが、長女、次女、三女と三男は結婚せず、祖父母が亡くなった後は4人で助け合いながら、店の2階と隣の家に暮らしていました」(Sさん) 一家は夕方から酒屋を立ち飲みの居酒屋にして、常連客相手の商いを細々と続けてきた。 ある常連客によると、居酒屋の雰囲気は「オヤジの駄菓子屋みたいなもの。お酒は小売価格そのものだし、おつまみも100円からあります。まさに貧乏リーマン御用達です。女将さんも含めてなんともほっこりする光景で、昭和を感じる」という。 ここに出てくる「女将さん」がSさんの叔母の良子さん(仮名・78歳)だ。 私は、品川駅から徒歩数分の幹線道路沿いにある店と住居を訪ねた。2階建てが2棟あり、かなり古びている。近くにソニー本社やNTTデータがあり、東京都の中央卸売市場などの高層ビルも林立している。“ビルの谷間の居酒屋”といったところか。 土地の登記簿を見ると2棟の敷地面積は合計111.73。新幹線が乗り入れる品川駅周辺は急速な開発が続いている。店の周辺の土地の取引価格は坪3000万円以上と言われており、土地だけで10億円以上の資産価値があるとみられる。
港区への疑念
そんな叔父、叔母に成年後見人がついた経緯は以下の通りである。 最初に後見人がついたのは良子さんの姉(次女)だ。長女が死去した後の2022年6月のことだった。 港区が区長名で「次女に成年後見人をつけたい」と家裁に申し立て、家裁がK司法書士を成年後見人に選任した。成年後見制度の利用申し立ては本人、4親等内の親族、市区町村長などが行える。 その後も港区は、三女の良子さんと三男にも成年後見人をつける申し立てを行い、同年10月に良子さん、同年12月に三男に成年後見人がつけられた。2人の成年後見人になったのがM氏だった。 「港区役所は、叔父、叔母に成年後見人をつけることを、すぐ近所に暮らす姪の私に事前に相談すらしませんでした。このことについて港区側は“相談、了承の対象は2親等までしかやらないことになっている”と開き直っていました。 家裁の審判に不満がある場合、親族には即時抗告の権利が保障されているのに、その権利を行使できませんでした」(Sさん) それにしても、わずか半年間に3人に次々に港区が後見人をつけたのは、いかにも性急な印象を受ける。急がねばならない特段の理由があったのだろうか。 1つの可能性として考えられるのが、都市開発と空き家対策だ。 成年後見制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表によると、政府と自治体は、この制度を都市開発や空き家対策として利用してきたという。 「古い家屋や空き家問題は都市開発、地域保全上の足枷であり自治体にとって頭痛の種。そこで本来は後見人を必要としない高齢者に、自治体が後見人をつける事例が全国で起きています。 後見人は高齢者を施設に入れ、空き家になった自宅を後見人が家裁の許可を得て売却するのです。不動産を売却すると士業後見人には後見報酬とは別に売却代金から100万円程度の臨時ボーナスが支払われます。Sさんのケースについて港区議から事情を聴かれた港区職員は“都市計画との関連では”と話したそうです」 Sさんは宮内氏に詳しい事情を話し、相談している。