加害者の今を知ってしまった…「娘の未来は絶たれたのに」中2いじめ、遺族の憤りと煩悶 学校推薦で高校進学、実業団選手に。謝罪はないまま
娘の死後、「いじめた側」に認定された12人のうち、弔問に訪れたのは2人だけだ。両親によるとその2人も自身の行為について謝罪の言葉はなかった。その他の生徒とは直接面会していない。 両親の心理的負担を考慮して、代わりに担当弁護士が加害生徒に対し個別に面談を実施している。聞き取りできたのは6人で、記録には「自分だけが悪いわけではない」と責任転嫁するような姿勢も垣間見られた。 両親は、適切な指導をしないまま加害生徒を高校に推薦した学校や市教育委員会の対応に深い不信感を抱いていた。いじめの存在をうかがわせる生前の娘が書いたアンケートの存在を学校側が当初、両親に示さなかったという問題もある。 両親が提示した和解案は市側に拒否され、「ずさんな教育現場を糾弾したい」と2020年9月に市を相手に訴訟に踏み切った。いじめ事案に通じた弁護士の意向もあり、未成年だった加害生徒は被告に含まなかった。 数カ月に1度やってくる裁判の期日が近づく度に精神的に追い詰められる。父親は「裁判に集中する」と自分に言い聞かせ、少しでも事態を前に進めるために加害生徒のことはなるべく考えないようにしてきた。
しかし、スポーツ選手として活躍していた生徒がいたと知り、怒りに震えた。加害生徒への思いは断ち切れるものではないのだと悟った。 父親は言う。「謝罪してほしいとは思わない。謝罪は生きている者にするのであって娘には謝罪できない。せめて娘が抱えた当時の苦しみ、そして遺族が今も苦しんでいること、つまり自分たちがしたことの重大さを知らしめたい」 ▽いびつな「成功体験」にならないか 教育評論家の武田さち子さんによると、いじめ自死遺族の多くは加害側の言動に長く苦しめられる。一度、謝罪を受け入れても、その後、反省の色が見えなければ「穏やかになりかけた気持ちが後戻りしてしまう」ことがあるからだ。 加害生徒が推薦で進学するケースは多いのか。武田さんは「万引などの犯罪や有形の暴力の場合は推薦が取り消される可能性が高い。でも、言葉や態度による暴力は相当悪質でも許されてしまう現状がある」と指摘する。 進学先にいじめの情報が伝わらなければ、加害生徒を注意する人がいなくなる。何のペナルティーも受けぬまま、自身の行為を反省する機会が失われてしまうと、同じことが繰り返されることにもなりかねない。「相手が死んでさえ、大したことはないという、いびつな成功体験になってしまう」。