最新鋭の情報収集機は、九州の西側空域で何をしていたのか? 史上初! 中国軍機の領空侵犯「次の一手」を読む
■数年後には爆撃機が九州周辺に飛来? では今後、中国軍の九州方面での活動はどのようにエスカレートしていくのか? 中国軍の活動がより進んでいる尖閣諸島・南西諸島では、中国国家海洋局の洋上監視機「Y-12」が初めて領空侵犯したのが2012年12月。その4年後の16年9月には、戦闘機、爆撃機など計40機(中国当局の発表)が宮古海峡を通り、西太平洋で大規模訓練を行なっている。 「九州の西側海域でも、いずれ似たような事態になる可能性は高いでしょう。戦闘機や爆撃機などの戦術機を実際に飛ばしてみて、電子偵察機などで集めた情報をもとに立てた予測と、実際の日本側の出方が一致するかを確認する。もし違ったなら、それは特別なのか、それとも通常の対応なのか。次に別のパターンで戦術機を飛ばしたら何がどう変わるのか......。そういった情報収集のために来るわけです」(前出・柿谷氏) それに対して、空自はどう対応すれば? 「とにかく領空侵犯を許さないことです。台湾空軍の場合、中国の空・海軍機に対して常に数的優位を取ることを基本に対処しています。 日本の場合は台湾よりも中国に対して地理的な間合いと縦深があるので、可能であれば対処が必要な領域に来る前にプレッシャーをかけるなど、押し込まれないように徹底した形でやり続けるべきでしょう。 ただ、今のままではそれは難しい。現状、空自のスクランブルは自衛隊法第84条にあるように、法的には『警察権の行使』という立てつけになっています。 今回の情報収集機はそれでも事が収まりましたが、戦闘機や爆撃機が入り込んできた場合はどう止めるのか。まだ時間がある今のうちに考えておくべき課題です」(前出・杉山氏) この領空侵犯の5日後、8月31日には、鹿児島県沖の日本の領海に中国海軍の測量艦が侵入した。測量艦の任務は、その海域の海底地形、水温など各種データを集め、潜水艦が通航するための〝海底地図〟を作ることだ。 前出の布施氏はこう語る。 「軍とは偵察、情報収集を日常的に行なう組織ですから、重要なのは自衛隊も中国軍も、無用な摩擦や誤解による衝突がないようリスク管理をしっかりすることです。 ただし、中国は今や立派な軍事大国で、その気になれば日本に威圧や嫌がらせ、攻撃を仕掛ける能力をすでに持っています。そうしないのは、今のところそれをやるメリット、意図がないからに過ぎません。 逆に言えば、台湾有事など中国の国益や戦略目標上の必要性が生じた場合は、その能力を日本に向けるシナリオもありえると考えておくべきでしょう。 最大限悲観的に考えて備えるのが安全保障の基本です。意図は一夜にして変わりえますから、能力の分析をすると同時に、意図に変化の兆しがないかも注視し続けていく必要があります」 取材・文/小峯隆生 写真/防衛省