最新鋭の情報収集機は、九州の西側空域で何をしていたのか? 史上初! 中国軍機の領空侵犯「次の一手」を読む
■狙いは下甑島に配備された〝ガメラ〟? 台湾政府の協力の下、10億円超の製作費をかけ来年放送される予定の連続ドラマ『零日攻撃 ZERO DAY』は、中国の台湾侵攻シナリオを描いている。その始まりは、今回の領空侵犯機の前シリーズに当たる中国軍のY-8対潜哨戒機が台湾周辺で行方不明になり、救難・捜索の名目で中国軍が台湾を海上封鎖する――というものだった。 ただ、今回の領空侵犯が意図的なものだったかどうかについては、杉山氏、柿谷氏、布施氏の3者とも「パイロットの操縦ミス」、つまり事故であると分析している。 「Y-9DZの任務は地道な情報収集です。空自のスクランブル機がやって来て情報収集を中断するのは本末転倒ですから、わざわざ領空侵犯をする動機は見当たりません」(柿谷氏) しかし、もちろんこれは「うっかりなら仕方ないね」で一件落着という話でもない。杉山氏はこう指摘する。 「以前は中国大陸沿岸でのみ活動していた中国空軍が、だんだん外に出て、宮古海峡(沖縄本島と宮古島の間)を通って太平洋に出られるようになったのが2010年代。そして今回、広く明らかになったのは、中国空軍がすでに東シナ海から九州に近づき、日本の領空ギリギリまで飛び出して、取れる情報を取って帰っているという事実です。 『零日攻撃』で描かれているように、その存在をきっかけに戦争が起きる可能性があるほど重要な軍事アセットが、九州まで出てきたことの意味を軽く見るべきではありません。 なお、今回の領空侵犯機の動きから考えると、狙いは空自・西部航空方面隊第9警戒隊のいる鹿児島県・下甑島分屯基地にある〝ガメラレーダー〟だったのでしょう」 外観が怪獣ガメラの甲羅に似ていることからその異名がついたフェーズド・アレイ・レーダー「J/FPS-5」は、探知距離が数千㎞に及び、弾道ミサイルの追尾から自軍の防空戦闘機の管制まで担う。 特に下甑島は、グアムの米軍基地や西太平洋に展開する米空母を狙う中国の弾道ミサイル発射を早期探知するには絶好の位置にある。 「領空侵犯は国際法違反の大失態ですが、中国空軍が能力を着実に上げていることは事実です。これからも淡々と戦略を推し進め、この空域での活動を活発化させていくでしょう」(杉山氏)