はやぶさ2のリュウグウ観測状況を報告(全文1)表面は予想よりも水が枯渇
水の有無を調べる、近赤外分光計NIRS3の運用結果について
北里:それでは近赤外分光計NIRS3について、ご説明申し上げます。まず装置の概要からなんですけれども、「はやぶさ2」では小惑星上の水の存否やその分布を調べるということを目標の1つとして掲げておりまして、この観測装置はその役割を担っているものです。具体的な方法としましては近赤外の反射スペクトルというのを測定します。その反射スペクトルというのは、資料の右下のグラフに示しているようなものでして、各波長ごとの反射率を線で結んだようなデータになります。 こちらに示しているデータはNIRS3で直接、測ったものではありませんで、実験室でNIRS3と同様の装置で測ったデータになります。これはリュウグウのようなC型小惑星から来たと思われている炭素質隕石を測ったスペクトルになっておりまして、赤い線と青い線2つがありますが、赤いほうがその中でも水が少ない隕石。青いほうが比較的水が多い隕石になります。こちらを見ていただくとお分かりいただけるかと思いますけれども、水が多い隕石のほうがグラフの右のほうにへこみがあるかと思います。これがわれわれが言っている水の吸収というものでして、この特徴を見ることによって小惑星上に水があるかどうかということを調べることができます。 次のページにいっていただいて。現在の装置の状況なんですけれども、装置自体は非常に正常に動作しておりまして、予想どおりの性能が出ていることを確認しております。6月21日に初めてリュウグウを捉えることができまして、その後も順調に観測を続けております。BOX-Aでは高度約20キロメートルのところで4自転分の観測データ。それから高度12から7キロのBOX-Cでは2自転分の観測を実施できております。その中でもスキャン観測というこのあとのページでご説明しますけれども、そのような観測をBOX-A、BOX-Cで、それぞれ1回ずつ観測しておりまして、これまでのところ合計約5万4000点のスペクトルデータ、大量のデータを取得して現在、解析を進めております。次のページをお願いします。 先ほど申し上げましたスキャン観測なんですけれども、このNIRS3という装置は視線方向が探査機に対して固定になっておりますので、そのまま観測してるだけでは常に同じような場所を見ているというものになります。ですので、小惑星表面の全体を観測するために探査機の姿勢を振るような、資料の左下の絵に示していますように探査機の首振りを利用することによって小惑星全体の観測を行います。その結果を示したものが右の図になりまして、これが色の付いているところが現在NIRS3で観測している領域になります。 赤いほうがより観測されているというものを表しているんですけれども、北極と南極の白い灰色の部分がいまだ観測はできていないという場所になっていますが、現在のところほぼ、全体の90%以上観測することができております。ここの図に示しているものはボックスAだけのものなのですけれども、ボックスCでも同様の結果が得られております。次のページをお願いいたします。 それで、今回の結果についてなんですけども、今後論文等を投稿していく関係上、実際のデータをお示しするのは控えさせていただきたいと考えておりまして、結果だけお伝えしますと、現在のところ3ミクロン付近の水の吸収は検出できておりません。つまりリュウグウ表面は予想していたよりも水が枯渇しているようであるということが分かりました。この科学的な解釈としては2通りが考えられるんですけれども、まだ観測できていない領域、北極、南極の部分ですとか、地下に水が存在する可能性が残っておりますので、今後の観測でそれらを詳しく調べていきたいと考えております。 吉川:はい。では次、形状モデルチームの平田先生からお願いします。