犬はいつ、どこで、どのように狼から進化したのか 犬の起源と歴史で今わかっていること
イヌの起源は?
さまざまな研究が、イエイヌの起源の地としてアジア、中東、ヨーロッパの3つの主要な地域に焦点を当てている。科学者の中には、イヌは地理的に異なる場所で二度、家畜化された可能性があると考える人もいれば、家畜化が起こったのは一度だけだったと考える人もいる。 科学はまだイヌの起源の地を正確に特定するまでには至っていない。だが、新たな研究が進むたびに謎の解明に一歩ずつ近づいている。 ベルギー、シベリア、チェコ共和国で発見された推定3万6000年前から3万3000年前の初期イヌの化石は、複数の場所でオオカミの家畜化の試みが複数回あったことを示唆している。 DNAに基づくいくつかの研究でも、2つの系統が示唆されている。例えば、2022年におこなわれた大規模な研究では、10万年にわたる72匹の古代オオカミのゲノムが分析され、東アジアと中東で2回、家畜化がおこった可能性を示す証拠が発見された。 また、2021年には、イヌの起源が2万3000年前のシベリアにまでさかのぼること、2024年には絶滅したニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax)がイエイヌに最も近い亜種であることが特定され、イエイヌの祖先が東アジアに生息していた可能性が示唆された。
イヌのDNAの探求
科学者たちはイエイヌの進化を研究する上で大きな進歩を遂げたが、研究結果のほとんどは相反している。オオカミがいつイヌになったのか、イエイヌの起源がどこなのかはいまだに正確にはわかっていない。 「ミトコンドリアDNA」の分析は、古代の化石に見られる特定のタイプのDNAを調べる高感度な技術で、現代のイヌの起源を特定する新たな情報の扉を開いた。しかし、DNA分析は必ずしも明確ではなく、決定的な結論を出すのは難しい。 また、今日のイヌとその祖先(ハイイロオオカミ(Canis lupus)の未知の亜種)を比較するために、体の大きさ、毛の長さや色、頭部や脚の形状などの観察可能な特徴(表現型)を利用するのも厳しい。 化石の証拠によれば、イヌの家畜化は約1万4000年前に起こったとされるが、DNAに基づく研究では、オオカミとイヌの分岐がそれよりもはるかに早い時期に起こったとされることが多い。 先に紹介した2022年のDNAに基づく大規模な研究は、イヌが出現したのはおそらく約4万年も前だっただろうと結論づけた。これは、いくつかの先行研究が示した時期とほぼ一致する。 例えば、2017年に研究者はドイツとアイルランドから出土した3つの古代イヌの化石のゲノムを分析した。これらの古代イヌのゲノムを5000以上の現代のイヌとオオカミの遺伝データと比較し、研究チームはイヌとオオカミが4万1000年前から3万7000年前の間に分岐したと推定した。また、この研究により、イヌが2万4000年前から1万7000年前の間に東(東アジアの犬種の祖先)と西(現代のヨーロッパ、南アジア、中央アジア、アフリカの犬種の祖先)の2つの集団に分かれたことが明らかになった。 これらの時期に基づいて、研究チームはイヌの家畜化は4万年前から2万年前の間に起こったと推定している。 科学技術の進歩によって、研究者が答えを探し求める際に、新しくてより良い情報が得られるようになっている。今後も研究が進めば進むほど、イヌの起源についてますます多くのことが明らかになるだろう。
文=Jackie Brown/訳=杉元拓斗