「追いかける恋」の科学、恋愛を読み解くカギは「希少性」?
簡単には手が届かない「高嶺の花」と呼ばれるような人に、かえって心を引かれる。あるいは、パートナーとのあいだにすきま風が吹き出したとたんに、関係を維持しようとすがりつく。私たち人間が持つ、こうした傾向に気づいている方もいるだろう。こうした傾向は決して偶然ではなく、「希少性の原理」が働いていることを示す、生きた例だ。レアなものや、失いそうになっているものに私たちが価値を置きがちな理由は、心理学で提唱されているこの概念で説明できる。 希少性の原理は、恋愛関係において、相手に魅力を感じる引き金として作用しているが、それだけではない。感情の高まりや、認識の転換、愛情やつながりへのアプローチにも、この原理が大きな役割を果たしている。 この原理が、恋愛における人の営みを形作っていくメカニズムを知れば、この原理がひそかに私たちの感情や決断に影響を及ぼしているケースに気づきやすくなるだろう。では、希少性が恋愛に及ぼす作用や、こうした作用に対してより意識的に対処する方法について説明していこう。 ■1. 「手に入れられないもの」に引かれる心理 「希少性」を持つ人、すなわち簡単には手が届かないように見える人は、かえって魅力的に映ることが多い。この現象は、よそよそしい人や、感情を読み取りにくい人に興味を持つ時のように、さりげなく効果を発揮している時もある。だがその一方で、予測不可能な行動がミステリアスな雰囲気をさらに強めるというように、よりはっきりした形で表出することもある。 恋愛という文脈で見ると、希少性の認識は、「追いかける」関係の原動力になっている。こうした関係では、追いかけることそのものが、時には実際の相手とのつながり以上に、スリリングに感じられている。 こうした情動は、短期的には高揚感をもたらすが、感情的な依存や、相手に対する思いの不均衡など、不健全な行動パターンの温床となることもしばしばある。 こうした行動バターンがもたらす帰結を調べた研究がある。2013年にSage Openに掲載された論文では、一方的に好意を抱く関係(相手に希少性を感じたことがその一因になることが多い)では、パートナーとの健全な関係にみられる、深い情熱や関与、お互いへの思いやりといった要素が欠けていることが明らかになった。独りよがりな恋愛は、情緒不安定に陥ることが多く、その結果、関係は不穏で満たされないものになりがちだという。 こうした研究結果は、手が届かない相手を理想化するリスクを浮き彫りにするものだ。希少性の魅力が、本当の心のつながりにはつながらず、むしろ感情的苦痛をもたらすおそれがあることを示している。