「雇用調整助成金」の不正受給公表1,157件 3月は94件、不正受給額は累計391億円
業歴10年未満が4割、雇調金の特例措置スタート後の起業は43社
TSR企業データベースに登録された創業年月または設立年月から起算した、公表月までの“業歴”が判明した865社を分析した。最多レンジは10年以上50年未満の388社(構成比44.7%)だった。次いで、5年以上10年未満233社(同26.8%)、5年未満122社(同14.0%)、50年以上100年未満103社(同11.8%)、100年以上19社(同2.1%)の順。 業歴10年で区切ると、業歴10年未満は355社(同41.0%)で4割を占めた。このうち、43社は雇調金の特例措置がスタートした2020年4月以降の設立または創業。コロナ禍で事業が軌道に乗る前に、間髪を入れず不正を行ったことがうかがえる。 一方、業歴10年以上は510社(同58.9%)で約6割を占める。コロナ禍前からの業績不振を不正受給で補おうとした可能性もある。 ◇ ◇ ◇ コロナ禍の営業自粛や人流抑制などによる業績悪化に直面し、従業員の雇用を維持するため、中小企業から上場企業まで多くの企業が雇調金を活用した。特に、対面型サービス業や労働集約型産業などで、雇用を下支えする効果が大きかった。 ただ、コロナ禍でのスピーディーな支給に向けた手続きの簡素化に伴い、申請の過誤や不正受給も頻発した。厚生労働省によると、各都道府県労働局の遡及調査で発覚した不正受給は、2024年3月末時点で3,051件、支給決定取消金額は約690億3,000万円に及ぶ。 このうち、支給決定を取り消された金額が100万円以上、または100万円未満でも悪質な事案と判断された不正受給は、社名や代表者名等が公表されている。さらに、法人だけでなく代表者など個人も対象とした刑事告訴もあり得る。不正受給金額が歴代2位の(株)水戸京成百貨店(2023年2月公表、受給金額10億7,383万円)のケースでは、茨城県警が2024年1月、不正受給を主導した疑いで元社長を詐欺容疑で逮捕した。 不正受給が公表された企業は、コーポレートガバナンスの欠如や財務内容の脆弱さにとどまらず、経営の本質を問われ、取引先や金融機関から信用を失う恐れがある。さらに受給金額に違約金と延滞金を加えて返還する必要があり、資金繰り難に陥るリスクも負うことになる。 雇調金等の主な財源は、企業が負担する雇用保険料を積み立てた「雇用安定資金」で賄われており、公平性の観点から不正受給には厳しい目が向けられている。その結果、ペナルティを課せられた企業は経営状況が大きく変動する可能性があり、今後の公表企業の動向に注目せざるを得ない。