エルサレム首都宣言 アメリカとイスラエルの関係は? 歴史的背景は?
Q:アメリカ国内の受け止めはどうでしょうか? 西氏 不支持が支持より多く、共和党支持者の間でも支持は不支持をわずかしか上回っていないので、客観的には、トランプ大統領がこの宣言をするべき国内政治上の理由はありません。 宣言の1か月前にメリーランド大学が行った世論調査では、在イスラエル米大使館をエルサレムへただちに移転することには、63%が反対し、共和党支持者も49%しか賛成しませんでした(民主党支持者の81%、無党派層の60%が反対)。 大使館の移転を命じるアメリカの法律(エルサレム首都法)は、米議会が1995年に可決・制定しましたが、これまではトランプ氏を含め、歴代の大統領が半年ごとに、移転を延期する条項を発動してきました。 アメリカのユダヤ人の主な政治団体である、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)やアメリカ・ユダヤ人会議(AJC)は宣言を支持していますが、アメリカ最大のユダヤ教の流れである改革派は「タイミングが悪い」と批判しています。
第三次中東戦争以後、政治・軍事的に緊密な関係に
Q:アメリカとイスラエルがどのような関係にあるのか教えてください。 西氏 政治・経済・社会的に緊密な関係です。政治・軍事的には1967年の第三次中東戦争以後、経済的には1990年代のイスラエル経済の高度成長以後、緊密になりました。イスラエルはITのスタートアップ企業が多く、シリコンバレーとの交流は盛んです。 イスラエルをほぼ無条件で支持するアメリカ人は、人数で言えば、ユダヤ人よりも、イスラエル建国を神の思し召しと信じる、保守的な福音派などのクリスチャン・シオニストが多いです。ただし、プロテスタントの多くの教派が加盟する全米キリスト教会協議会(NCC)も、カトリック教会や正教会も、クリスチャン・シオニズムに反対しています。 Q:アメリカとイスラエルは同盟関係にあるのでしょうか? イランの核燃料工場を攻撃したスタックスネットというサイバー兵器はアメリカとイスラエルが共同で開発したと言われていますが、軍事同盟的な関係も有しているのでしょうか? 西氏 相互防衛条約はありませんが、アメリカでは同盟という表現が一般的です。スタックスネットの例のように、共通の敵に対しては緊密に連携して情報活動を行っています。ただし、アメリカとイギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの関係(ファイブ・アイズ)とは異なり、アメリカとイスラエルは、互いにスパイ活動を行う可能性もあることを理解しています。 アメリカの法律は、中東におけるイスラエルの「軍事力の質の優位」を保障することを定めており、アメリカは高性能兵器をイスラエルへ優先的に輸出しています。イスラエルはF-35戦闘機を買う国で唯一、独自に改造することを認められています。 米軍がイスラエルに常駐するようになったのは、2017年9月、米陸軍のミサイル防衛用Xバンド・レーダーが、イスラエル空軍基地に配備されたのが初めてです。同じ種類の米陸軍部隊は、青森県と京都府に先に駐留しています。 Q:イスラエルがエルサレムに首都を置いているのは、エルサレムがユダヤ教の聖地だからという宗教的な理由からなのでしょうか? 西氏 宗教的な理由です。無宗教の初代首相ベン=グリオンでさえ、1949年にエルサレムを首都と宣言したとき、「3000年前、ダビデ王の下で統一された時からイスラエルの心にあった、神聖な都市エルサレム」と言いました。なお、聖地のある旧市街は第一次中東戦争でヨルダンが占領しており、ユダヤ教徒は1967年の第三次中東戦争まで排除されていました。 Q:トランプ大統領の意図について、どのようにお考えですか? 西氏 トランプ大統領は、首都宣言に賛成するアメリカ国民が多いと信じていたかもしれません。または、イスラエル側の考えを聞いて、宣言をしたほうが和平の道が開けると考えたかもしれません。トランプ大統領は、長年問題を抱え込んできたプロたちの常識を疑い、覆そうとする人です。