「ユーザーを『人』ではなく、『ターゲット』として見ていないか?」 講談社 ライツ・メディアビジネス本部 局次長 長崎亘宏 氏
デジタル市場の再考を促す、DIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「REFRAME─デジタルの再考─」。今回、デジタル広告市場の問題を提起するのは、講談社のライツ・メディアビジネス本部 局次長でメディアプラットフォーム部 部長を兼務する長崎亘宏氏だ。 長崎氏は、アドフラウドやMFAが跋扈(ばっこ)する現在のデジタル広告市場を食品流通に例え、「いま、多くの料理(広告)が載っているのは質の高いコンテンツが作り出す上質な器ではなく、ペラペラな紙の器ではないか」と声を震わせる。 また、「広告というメッセージを伝えるべき相手を人とは見ておらず、あくまでターゲットとして見ていないか?」と疑問を呈し、受容性の観点が抜けているデジタル広告の根本的な問題を指摘する。そんな長崎氏は、パブリッシャーとしてデジタル広告市場へどのような提言を行うのか。 ◆ ◆ ◆
──現在の日本市場におけるデジタル広告の課題について、どう考えているか?
ユーザーファーストの観点からどんどん外れてしまっていることが最大の課題だ。広告の質は低く、ユーザーの受容性は大して考えられていない。 たとえば、GDPRなどのデータ利用の規制がなぜできたのか? 最近でいえばChrome上でサードパーティCookieがなぜ廃止されるのか? それは生活者を守るためであり、生活者に不利益をもたらさないようにするためだ。「当てる」だけのリーチでよいのか? クリックだけ取れればよいのか? 広告がどうユーザーに受け入れられているかという観点が抜けているのではないだろうか。 受容性がないものを受容性がない方法で送ってしまっているように感じる。広告というメッセージを伝えるべき相手を人とは見ておらず、あくまでターゲットとして見ているとすら思うときもある。ポストCookieが問われる時代だからこそ、このタイミングでもう一度生活者視点に立って、デジタル広告のあり方を考え直すべき時期に来ている。
──では、なぜそうした環境になってしまったのか?
日本市場ではとくに、広告主やメディアプランナーが獲得メインでデジタル広告を捉えてしまっている。彼らがデジタル広告にエンゲージメントやブランディングを求めることを諦めてしまったのではないかとさえ思う。日本においてそれはTVでやるもの、という風潮になっていないか。インターネットでもブランディング、エンゲージメントが担えると思われるレベルに達しなければ、抜本的な解決にはならないだろう。 また、現在のデジタル広告のUIやフォーマットの限界もある。運用型広告のメインであるディスプレイ広告枠や動画広告枠も飽和状態だ。そうしたわけで、大量のリーチを確保するためにホールセラーであるウォールドガーデンに広告が集まって、時として低品質な広告が量産され、思いがけない不正なサイトにも掲載されるリスクを抱えてしまう。