ロールス・ロイス・スペクター 詳細データテスト 品格ある走り 新時代ロールス 革新的EVではない
操舵/安定性 ★★★★★★★★★☆
すでにこのクルマのワイドさには言及しているが、ドアを閉めればその圧倒される感じは少し和らぐ。それでも車線幅を埋めるほどの大柄なGTで、攻めるほどにより精密な操作が求められる。 印象的だったのは、カントリーロードでのハイペースなドライブが、ファントムやカリナンよりしやすかったこと。むしろ走りの性質はゴーストに近いものがある。 ハンドリングは、過敏さや不自然に出そうとしたアジリティが一切ない。旋回に合わせてのロールは小さいが。ふんわりした乗り心地が、荒れた道ではやや波打つような挙動を生んでしまうこともある。コーナリングは安定していて、安心感を覚えるほど精確。四輪操舵にせよアクティブスタビライザーにせよ、そうしたアクティブ制御が機能して、速度が高くてもタイトなラインを素晴らしいアキュラシーで刻んでいく。直線はおろか、ワインディングで3t近いクルマが、これほどハードな走りに応えてくれるとは、想像もできなかった。 ステアリングの手応えは軽いが、走行度に応じて重さを増す。ロックトゥロック2.4というのは、ロールスとしてはややダイレクト。電子制御トラクション/スタビリティコントロールを備えるが、ハイペース時でも介入はそれと感知させない程度だ。オンにしておけばパワーオンでのアンダーステアを防いでくれるが、グリップ限界の範疇であれば、これらのデバイスをカットしても安定したコーナリングをできるはずだ。 高速コーナーと、おだやかなロールを発生させるような地形は、かなり気持ちよく走れるクルマだ。
快適性/静粛性 ★★★★★★★★★☆
スペクターが他を圧倒するのはこのジャンルだ。まず、キャビンの静粛性を世界トップクラス。二重構造のフロアと700kgのバッテリーは、ロードノイズをうまく制している。風切り音もまた、みごとに抑え込んでいる。 80km/h巡航での室内騒音は、たったの55dBAで、同じようなコンディションで2018年に計測したファントムVIIIは56dBAだった。メルセデスAMG EQS53は59dBAだったが、これでも最新EVの中ではかなり静かなほうだ。ちなみに、2021年のゴーストは同じく55dBAをマークしている。 113km/h時に、ゴーストの58dBAに対して61dBAとやや遅れをとるが。これはオプションの23インチホイールによるところもありそうだ。ともかく、グッドウッドではエンスージアズムよりも、リファインメントの高い水準をこのクルマで示したかったにちがいない。 ふんわりしたプライマリーライドの構築には、かなり手を焼いただろう。しかし、その努力は無駄じゃなかった。高速道路や速度域の高いA級道路ではホバリングしているかのよう。うそみたいに路面を感じさせず、クルージングを楽しませてくれる。 低速域で悪路では、この妙技に翳りが出るが、これは23インチホイールの重量が影響している。わずかながら、路面からの衝撃を大きくしているのだ。