『きみに読む物語』晩秋の空、間違えたかもしれない選択
『きみに読む物語』あらすじ アルツハイマー病で昔の記憶を失い、療養施設で暮らす初老の女性。彼女のもとにデュークと名乗る年配の男性が足繁く通っては、ある物語を彼女に読み聞かせる。それは1940年の夏、南部の小さな町で始まる物語。家族と休暇を過ごすため、アメリカ南部の小さな町を訪れた、良家の17歳の子女アリーは、地元の材木工場で働く青年ノアと出会い、たちまち運命の恋に落ちる。けれども、娘の将来を案じる彼女の両親は2人の仲を認めず、彼らの運命は引き裂かれてしまう。
決定的な恋=傷跡
「彼女は人生でやりたいことを話した。未来に対する希望と夢。それを彼は熱心に聴き、かならず実現すると断言してくれた。彼がそう言うと、夢がかなうと信じることができた。彼を大切な人だと悟ったのは、そのときだ。」(ニコラ・スパークス「きみに読む物語」)* 1940年のサウス・カロライナ州チャールストン近郊。若者たちが賑わう遊園地でノアはアリーを見つける。それはまさしく一目惚れだった。最初のアプローチをそれとなくかわされたノアは、アリーの乗る観覧車にアクション俳優のごとく飛び乗り、クレイジーな作戦を仕掛ける。ノアは観覧車の支柱にぶら下がる。落ちたら大怪我どころの話ではないだろう。いますぐデートの約束をしてくれなければ、ここから落ちる!命がけでダイナミック、常軌を逸するどころか、やや犯罪的ですらあるノアのアプローチは完全に脅威であり、しかし脅威だからこそ、アリーはノアに強く惹かれる。富豪の娘であるアリーは奔放な性格のように見えて、行動を制限されている。アリーはノアの中に「自由」を見つける。その若さにも関わらず、ノアには人生を楽しんでいる、物事をよく知っているような雰囲気があった。なによりアリーにとってノアは自分を大きくしてくれる存在だった。 ニコラ・スパークスの原作では、若いノアとアリーの描写にそれほど多くのページは割かれていない。二人の再会後とアリーがアルツハイマーの病に罹る老後の物語がメインになっている。それにも関わらず、読者は若い頃の二人が経験した決定的な恋をこの小説の基調として読むことができる。人生を変えてしまうような恋とは、決して消えることのない傷跡のことでもある。大切な人がいなくなった後も、町の至る所にその人の幻影を描き続けてしまう。ニコラ・スパークスはそれを「亡霊」と形容している。離ればなれになった二人は、知らず知らずのうちに「亡霊」を探している。 ニック・カサヴェテス監督は原作にあるこのエッセンスを拡大する。路上で二人が寝そべるシーン、そしてダンスをするシーンで、アリーは生まれて初めて心の底から笑ったかのような笑顔を見せる。若さと情熱。『きみに読む物語』(04)の前半は、ハイライトに次ぐハイライトといえるシーンがジェットコースターのように続いていく。若い二人の路上シーンは、同じくライアン・ゴズリング主演の『ブルーバレンタイン』(10)におけるウクレレの演奏シーンと双璧の出来栄えだ。アリーはノアによって本来の自分の姿を発見していく。アリーが小走りでノアの元に駆け寄ってくる姿がたまらなく愛らしい。アリーの無邪気な走り方は、ノアの前でしか見ることができない。旋風を巻き起こすアリー=レイチェル・マクアダムス!