不確実な時代でも部下を不安にさせない4つの戦略
■影響と行動を具体的に語る 企業幹部はえてして、地政学的情勢や経済環境、テクノロジーの変化が社会と経済にもたらす不確実性全般について論評しがちだ。そのような振る舞いに、特に悪気はないのだろう。自分を賢く見せたかったり、難しい状況に直面している時にメンバーがそれを自分たちの責任ではないと思えるようにしたかったりするのかもしれない。しかし、企業幹部がこの類いのメッセージを発しても、従業員は、その問題がどれくらい深刻なのか、そして自分がどのような行動を取るべきなのかがはっきりわからない。 そこで、企業幹部はその代わりに、自社に関わりがある具体的な不確実性について指摘し、その問題についての自分の考えを説明すればよい。たとえば、このような形だ。「我が社のプロダクトに関してさらに規制が強化されるのかどうかについて、状況は不確実です。そのため、向こう6カ月間はさらなる投資に慎重でなくてはなりません。また、規制が比較的緩やかな市場への多角化を進めたり、規制づくりのプロセスに関与する方法を見出したりすることも必要になります」 人々に建設的な思考を促すためには、まずは企業幹部自身がそのような思考様式を実践してみせる必要がある。そこで、自社を取り巻く不確実性に関わるシグナルと、その不確実性を形づくってきたトレンド(その多くは長い時間をかけて形づくられてきたものだ)についてさらに知るべきだ。たとえば、自分が知っていることと知らないことを明確にし、自社の周縁部で──つまり、自社と顧客、納入業者、パートナーとの関係で──起きていることを掘り下げて検討しなくてはならない。 不確実性がどのような結果をもたらすかというシナリオを描き出すだけでなく、それがどのような結果になってほしいかを描き出すことも重要だ。望ましいと思う結果から逆算すること、そしてそれぞれのシナリオが実現する確率を明らかにすることを忘れてはならない。そして、一つひとつのシナリオが戦略に及ぼす影響を検討しよう。たとえば、あるシナリオが実現した場合、戦略上の決定の土台を成す前提がどのように変わるかを考えるべきだ。 この作業が終われば、次は行動の段階だ。具体的には、次のようなことを行えばよいだろう。 ・短期の戦術的な行動を取る(たとえば、リソースの配分を見直したり、財務リスクをヘッジするための措置を講じたりする)。 ・新しい機会が出現した場合に、すぐに行動できるように準備する(たとえば、活動やプロセスを試験的に実行しておく)。 ・不確実性がもたらす結果について、長期的な賭けをする(たとえば、投資したり、提携を結んだりする)。 ■自分が学んだことを共有する 企業幹部が不確実性についてどのように考えていて、その不確実性にどうやって対処するつもりでいるかを従業員に話すべきである。不確実性に圧倒されて悲観的になることを避け、新しい機会に目を向けるために、どのように行動しているのかを語るのだ。企業幹部がそのようなことを述べれば、メンバーが自分の不安を語りやすくなる。社員が自分の抱いている不安を口にした場合の悪影響について、心配しているケースもあるからだ。また、企業幹部がこの種のメッセージを発すれば、社員がこれを学習のためのエクササイズと位置づけるよう促す効果も期待できる。 さらに、自社が過去にどのようにして不確実性を乗り切ったかを語り、レジリエンスとイノベーションの物語を共有しよう。これは、人々に誤った安心感を持たせたり、現状を肯定する発想を抱かせたりすることが目的ではない。過去の経験から学び、難しい状況をもう一度乗り越えることが可能だという自信を注入することが目的だ。 企業幹部は、みずからが過去に直面した不確実な状況、その時に感じた不安と、自社を守るために取った行動、そしてその経験を通じて学んだ内容について語ろう。いま直面している状況が過去の状況とまったく同じということはないだろうが、過去の経験は、どのようなことが可能かを思い出すための強力な材料になるだろう。 以前、筆者が助言していたCEOは、社内に向けてこのようなメッセージを発したことがある。「いくつかの市場で政治的不安定が増大しつつあります。場合によっては、政権交代が起きるかもしれません。我が社は、同様のことを過去にも経験しています。そうした経験から学んだのは、情勢の展開をしっかり見守り、自分たちの発する言葉によく注意を払い、新しい閣僚や高官に働きかける用意をしておくべきだということです」 ■新しい機会を見出すよう、人々に促す 企業幹部は、自分一人だけで不確実性に対処しようとしてはならない。社内のチームや事業部、部署の力も借りよう。その際は、それぞれの部署が最も対処しやすい不確実性に特化して対応するよう促すべきだ。それぞれの部署の人材プールやサプライヤーに影響を及ぼす問題などがそれに該当するだろう。この点を徹底しないと、社内のそれぞれの部署が自分たちではほとんどコントロールできない問題に気を取られてしまう。 具体的には、このように言えばよいだろう。「この不確実性に対して不安を感じるのは無理もありません。でも、皆さんにお願いしたいのは、自分が最もうまく対処できる課題に集中することです。それは、顧客に奉仕することです。そうすることにより、この試練の日々をうまく乗り切れる可能性が最も高まるのです」 また、社内にスタートアップ的なチームを立ち上げて、不確実性の中に機会を見出すよう促そう。そのようなチームをつくる際は、多様な経歴やスキル、役割の人たちをメンバーに加えることが重要だ。そして、そのメンバーの思考の手引きになるツールを与えて、意思決定の権限と責任を持たせよう。 * * * 企業が直面する不確実性のすべてに新しい機会が隠れているなどというのは、あまりに物事を単純化しすぎている。不確実性がもたらす甚大な悪影響を和らげたり、回避したりすることが重要になる場合も多い。しかし、不確実性を戦略的にとらえて対処すれば、メンバーの力を引き出し、いっそう積極的に会社に貢献するよう促せる可能性もあるのだ。 "When Discussing Uncertainty, Highlighting Opportunities for Your Employees," HBR.org, December 12, 2023.
デイビッド・ランスフィールド