不確実な時代でも部下を不安にさせない4つの戦略
■不確実性への対処法で従業員を不安にしていないか 企業の最上層部の人たちは、どのように不確実性をマネジメントしているかをしきりに語る。たとえば、「慎重に振る舞い、リスクを軽減しています」などと言う。自社のレジリエンスを強化し、勝利を収める能力を高めるために、どのような戦略上の選択をしているかを説明しようとするのだ。また、こうした企業幹部たちは、個人レベルでもみずからの完璧主義的な傾向を和らげ、過度の単純化がもたらす悪影響を回避しようと努めている場合が多い。 企業幹部たちがこのような事柄に強い関心を払うのは、意外なことではない。従業員をはじめとするステークホルダーたちは、自社が複雑で不確実で変化の激しい環境を乗り切れるという安心感を求めている。それに、ステークホルダーたちは、自社がそのような環境にあることを、戦略の欠如や劣悪な意思決定、お粗末なパフォーマンスの口実にしてほしくないとも思っている。 問題は、不確実性の時代だとあまりに強調されると、従業員は自分の現在の地位と将来の見通しの両方に対して不安を抱くようになることだ。その結果として、受け身になったり、自己防衛に走ったり、内向きの発想に陥ったりするケースがある。そのような態度を取ることにより、みずからを不確実性から切り離せると思っているのかもしれない。 従業員たちに対して、不安を煽るのではなく、レジリエンスと柔軟性を発揮し、献身的な姿勢で業務に臨むよう発破をかけるリーダーは多い。しかし、上層部がこうした態を取れば、ますますプレッシャーが強まり、従業員の置かれた状況をいっそう悪化させるおそれがある。 企業幹部が自社を取り巻く不確実性にしっかり対処しつつ、従業員に不安を抱かせることなく、むしろ自信を持たせるためには、どうすればよいのか。以下の4つの戦略を実践すれば、不確実性を前向きにとらえて、こうした状況がもたらすチャンスをつかむよう人々の背中を押せるだろう。 ■機会に目を向けることから出発する思考様式を持つ 最初に、将来、自社で生まれる可能性がある機会について語ろう。特に、不確実性が原因で生まれる機会に光を当てることが重要だ。このような見方をすることにより、自社を待ち受ける試練ではなく、今後どのようなことができるのかという可能性に目が向くようになる。 競合他社が存在していない領域に注目し、まだ満たされていない顧客ニーズに対応することを考えよう。たとえば、このようなメッセージを発すればよい。「この市場で我が社の存在感を高める機会があることに、非常に胸躍る思いです。利用する業者を変えようと思っている消費者もいれば、景気の不確実性が高まっている中で現在の取引を継続しようと思っている消費者もいるでしょう。私たちは、そうした人たちを惹きつける魅力的な提案ができます」 こうしたことを述べる際に、注意すべき点がある。不確実性とそれに伴うリスクについて語るために、どれくらいの時間を費やすかということだ。不確実性を話題にすると、確実性の高い環境で活動することが当たり前であるかのような印象を生み出してしまう。しかし、そのような発想は現実離れしている。また、不確実性を強調するメッセージは人々の不安を誘発する。人は「不確実性」という言葉を聞くと、ネガティブな影響やリスクを連想する傾向があるのだ。 したがって、同じ内容を伝えるにしても、「不確実性」以外の言葉を用いるようにしよう。たとえば、「気候変動が我が社のオペレーション、インフラ、サプライチェーンに及ぼす影響について、学ぶべきことがさらにあります」などと言えばよい。 とはいえ、不確実性に関わる話題を避けろというわけではないし、不確実性の影響を過度に単純化して語れというわけでもない。そうした態度は不誠実と言わざるをえない。ここで指摘したいのは、人々が思い込みを捨てて機会について考え、みずからの感情的な反応とある程度距離を置けるようにすべき、ということだ。