岡山市「バス路線」再編案で公共交通の新時代へ! 「公設民営」とは何か? 市民の移動自由を拡大する戦略に迫る
岡山の最大の特徴
現在、全国のバス会社が減収や運転手の人手不足を理由に、減便や路線縮小を余儀なくされている。そうしたなかで、この計画案は極めて積極的に延伸や増便を行い、利便性を向上する“攻め”の姿勢をとっている。これこそが、この再編案を注目すべき理由だ。 さらにこの計画が画期的なのは、大胆な計画にも拘わらず岡山市内で運行する各バス会社の理解を得るところまでこぎつけたことだ。これまで、岡山市と周辺地域の路線バスには、次のような特徴があった。 ・市内に乗り入れするバス会社が9社 ・同一路線で競合が存在 ・路線は岡山駅に向かって放射状ルートで、郊外駅同士をつなぐ路線がない ・市南部などの人口増が続く地域の路線が希薄 とりわけ、多くのバス会社が競合し、 「同一路線で争う」 のは岡山の路線バスの最大の特徴である。そして、この競合は、これまでも問題となってきた。2018年には、八晃運輸がJR岡山駅と西大寺地区を結ぶ新しい路線の開設を計画。これに対して、両備グループが過度な競争を生むと激しく抗議した。 この路線は両備バスの“ドル箱”路線であり、その収益によって赤字路線の運行も確保されていたためだ。そこで、両備グループでは、対抗策として、赤字路線の大幅廃止を打ち出し、組合は無改札ストライキ(料金をもらわない)を実施。国内だけでなくフランスでもニュースにもなった。 各社の激しい競合はバスターミナルの運用にも現れている。市内中心部の百貨店・天満屋にある天満屋バスターミナルには複数のバス会社が乗り入れているが、唯一、宇野バスだけは、乗り入れをせず、近隣にある自社の表町バスセンターを拠点として運行を行っている。この状況は、岡山市の路線バス特有の問題であり、おそらく、ほかの地域からみれば極めて奇妙なことだろう。
企業の戦略転換
激しい競合のなかで、各社は自社の利益を優先し、利用者の利便性を犠牲にしてきた。 このため2018年の西大寺路線での問題を契機に、岡山市では協議会を立ち上げ各社に路線の再編を呼びかけた。しかし、各社の意見は容易にまとまらなかった。協議会自体も一時は停滞。2023年6月に再開されるまで2年4か月も中断する事態にもなっていた。 そうしたバス会社が、利害を超えて意見の一致をみた点で、今回の計画案は極めて画期的なのである。地方公共交通に関するシンクタンク・NPO法人公共の交通ラクダ(RACDA)の会長である岡将男氏は、その理由をこう語る。 「やはり新型コロナウイルス感染拡大の影響は大きかったと思います。各社とも大幅な減収が続き、今までどおりに競争することは無理になりました。それで、ようやく話し合いをする機運が生まれたのです」 とりわけ大きな変化は、八晃運輸が火種となっていた西大寺線からの撤退を決めたことだ。同社が撤退を決断した理由は、再編案でバス網を都心・幹線・支線にわける案が示されたことだ。同社は、西大寺線から撤退する一方で支線の運行の受け皿になる見込みだ。 再編の実施で、公共交通の利用者が増加することへの期待は大きい。全輸送機関の輸送人数に占める各輸送機関の輸送人数の割合は「輸送分担率」と呼称される。2023年に岡山県が行った調査では岡山市内の電車バス分担率は多い順に ・北区:12.3% ・中区:8.7% ・東区:8.2% ・南区:4.5% となっている。特に南区は主要な公共交通機関がバスであるにも拘わらず数値が低い。これは、バスが利用のニーズに合致していないことを示している。前述の岡氏は政令指定都市として 「電車バスの分担率を全域で20%ほどにすべきだ」 だと語る。再編案によって、その目標にどれだけ近づけるか、注目が高まる。