世界の被害年13兆円 横行する広告詐欺、あなたの会社も食い物に
広告費の詐取、倍増の恐れも
23年以降、MFAサイトに広告が表示される割合は20~30%まで急上昇。配信は自動化されているため、人の目によるチェックを受けないまま表示されてしまう。サイトの数が多過ぎて1件ずつブロックする作業も追いつかない。 英調査会社ジュニパーリサーチの試算によると、23年における世界の広告支出額の実に22%、842億ドル(約13兆円)が広告詐欺によって奪われた。28年にはこれが1723億ドルに倍増する恐れがある。 そもそも生成AIによるMFAサイトと人がコストと時間をかけて作ったサイトを区別する方法は現時点で存在しない。ソニーグループ傘下でネット広告を販売するSMN(東京・品川)の大関晃弘商品企画部長は「画面に占める広告の割合が多い、他メディアのコンテンツを盗用しているといった特徴から判断するしかない」と話す。 一律でMFAサイトを判別する方法がないため、規制を強めれば人の手でつくられたサイトを意図せず広告市場から締め出してしまう恐れもある。グーグルのようなプラットフォーマーは抜本的な解決策を打てていないのが実情だ。 広告費の詐取と並んで深刻化しているのが、アダルトサイトなどに自社広告が表示されることによる「ブランド毀損リスク」だ。 ●花王、ブランド既存阻止へ自衛 花王は17年ごろから広告の不正行為を探知するシステムの導入を検討し始めた。きっかけは消費者の声だった。「花王の商品の広告を芸能人のゴシップサイトで見かけたが大丈夫か」などの指摘があったという。 花王が確認したところ、想定していなかったようなサイトに自社の広告が掲載されているケースを多数発見した。同社のマーケティングイノベーションセンターでメディア企画開発部長を務める板橋万里子氏は「商品のブランドイメージを悪化させかねない状況に危機感を覚えた」と振り返る。 花王は対策として19年、イスラエルのスタートアップが開発した広告セキュリティーシステムを導入した。自社の広告が表示されたサイトのページを全て監視し、事前に設定した除外キーワードを含んだコンテンツがあればその後の掲載を自動的にブロックする。 導入前、社内からは「なぜ広告主が費用をかけて対策しなければいけないのか」という反対意見も出たが、状況は悪化するばかり。実際に自社広告が掲載された不適切サイトの一覧表を作り、板橋氏らが社内への説明を重ねて理解者を増やしていった。 足元では広告が掲載されたページのうち2割超でブロックする結果になっている。それほどにリスクが拡大しているということを浮き彫りにする。「自衛しなければ、もはや自社ブランドは守れない」と板橋氏は話す。