地方の「カネと政治」の闇を描くドキュメンタリー│映画『はりぼて』
人間の”顔の醜さ”を印象づける演出
議員たちが次々に辞めていく中で、まるで人ごとのような態度の森市長は、いわば小狸顔だ。不正や問題発覚のたびに取材を受けるが「コメントすべき立場にない」「制度論の話だから」などと判で押したような同じ返答でかわす様子は、おそらく見る人を一番イラつかせるだろう。中川議員のような小悪党より、こういう”狸”が実は一番問題なのではないかとさえ思わせる。 「政務活動費情報請求者の名前の漏洩」という疑惑を持たれ、弁明と謝罪に追い込まれた事務局長の困り果てた顔も印象的だ。元は真面目で若干気弱な人が、さまざまな圧力の中で忖度するようになってしまった、そんな”板挟み”状況が顔つきにそのまま現れている。 この人は潔白だろうと思わせた育ちの良さそうな紳士顔の村上議長に、腐敗した議会への怒りを取材カメラにぶつけた若手の”熱血漢”木下議員。良心的な議員もいるじゃないかと思って見ていると、事態の進展の中でそれぞれがっかりさせられる。 何より、最大会派の最後の大物、五本議員の、煮ても焼いて食えなさそうな鉄面皮が、富山市議会の体質的・構造的な問題を象徴しているかのようだ。黒く染めたオールバックに銀縁眼鏡で、支持者の前で土下座して再選を懇願し、不正疑惑には「皆、やってる。俺だけじゃない」と嘯き、数百万の着服金を返金した後も「辞職しません」と居座り続ける。 こうした議員たちへのインタビュー場面では、終わりの方で音声が消え、何か喋っている顔だけが数秒映し出されるという演出がなされている。それによって、保身のための虚しい言い訳や開き直りをしている人間の”顔の醜さ”が印象づけられる。 居眠りする議員の目立つ議会と、市庁舎の上を舞う大量のカラスの群れ。たびたび挟まれるそのショットが暗示するものは、もはや言うまでもないだろう。 ◾️記者たちの行動力と執念 一方、こうした政治ドキュメントやドラマでヒーロー然となりがちな「不正を暴く」側は、かなり抑制されたトーンで描かれている。 取材であちこちをこまめに飛び回り、真実を求めて地元の関係者に食い下がる場面は何度かあるものの、基本的には彼らはカメラのこちら側にいてクローズアップされることは少ない。