「サンリオ」「セーラームーン」がアメリカの若者のあいだで大ヒット。「少女らしさ」を楽しむトレンドって?
「ガール」トレンドとはなにか?
朝起きるとすぐにスマホをタップしてSNSアプリを立ち上げる。そこに並んだ投稿や動画を見て、怒ったり、悲しんだり、喜んだりする――私たちの生活の奥深くにSNSが浸透するようになってすでに数年が経ちました。 そしていまやSNSは、政治や経済にすら巨大な影響を与えることも明らかになってきています。社会について考えるためには、SNSの動向を追うことが必須となっているのです。 SNSと社会の関わりの現在地について、アメリカの事例を参照しながら、その最前線を教えてくれるのが、ライターの竹田ダニエルさんによる『SNS時代のカルチャー革命』という本です。 著者の竹田さんは、アメリカで理系の研究者として働くとともに、アメリカのカルチャーの最新事情を継続的にレポートし、日本に紹介しつづけています。 たとえば同書がレポートするところによれば、近年、アメリカの若い人たちのあいだでは、SNSを中心に、サンリオやセーラームーンといった「日本の可愛いキャラクター」が人気になっているそうです。その背景には、女性たちのあいだで「少女らしさを楽しむ」ことが流行したという事情がありました。とくに2023年は、「ガール」がトレンドとなったといいます。 同書より引用します(読みやすさのため、改行などを編集しています)。 〈2023年の「ガール」トレンドといえば、まずは映画『バービー』の歴史的な快挙がある。大人も子供も、バービーカラーのピンクを全身に身につけて友達や家族と一緒に映画を観に行く現象が話題になった。〉 〈作品内でも、男性中心社会において女性の性役割を押しつけられ、「少女」や「母」として括られることの葛藤が重点的に描かれている。『バービー』は、「女性性」に対する前時代的なレッテルや、家父長制的な社会のシステムに多くの人々が感じてきたであろう違和感や絶望感を肯定し、女性の経験をエンパワーする作品として、ポップカルチャー史における重要なポジションを獲得した。 音楽シーンでは、テイラー・スウィフトのワールドツアー「The Eras Tour」が歴史的な興行収入を記録していることがたびたびニュースになっている。ライブの現場ではファン同士が子供も大人も年齢関係なく、まるで小学校の教室で女の子たちの間に流行ったような手作りのビーズのブレスレットを交換するという特徴的な社会現象も起きた。 さらに、オリヴィア・ロドリゴの最新アルバム「GUTS」では、ティーンの女の子たちが抱える搾取への怒りや葛藤、自己嫌悪が、ミレニアル世代や年長のZ世代がティーンの頃によく聴いていたようなロックサウンドに乗せて歌われていることが(もうティーンではない)20代の女性たちの大きな共感を呼んだ。「GUTS」のリリースを待ち望んでいた人々による“big day for teenage girls in their 20s(20代のティーン女子にとって大事な1日だ)”という冗談まじりの投稿も、ミームとして広まり話題になった。 つまり、2023年は大人の女性が「少女らしさ」をカルチャーの面で大々的に楽しんで取り入れた年だった。この現象は、女性たちの「inner teenager(内なるティーンエイジャー)」を救うものとしても注目されている。〉 〈「ガール」は、男性にとって都合の良い、ただの純粋で無知な存在ではない。「女性」という、社会的に様々なことを背負わされる「記号」になりたくないという強い意志を抱きつつも、精神的にも身体的にも常に変化していく自分自身に対する葛藤と戦う存在でもあるのだ。 そんな「生意気な」気持ちを表現することが許されなかった、もしくは表現するだけの理解力や言語能力を持ち得なかった内なる幼少期の自分(インナーチャイルド)を、大人になった今「少女らしい」美的価値観を取り入れることによって抱きしめてあげることができる。〉(同書p.43-45)