利回りが低いのに、なぜ大人気?自治体が発行する「SDGs債」 企業が欲しがる真相…「漁場を守りたい」に6倍超の需要
▽債券購入によるアピール効果 自治体が発行するこうしたSDGs債は2017年に始まり、急激に発行額を伸ばしている。2023年度の発行額は4937億円で、前年度の2倍近くに増えた。 ただ、利回りは良くない。自治体が発行する地方債では、道路建設といった公共事業が一般的だ。同一の条件下では、SDGs債の方が利回りは低くなる傾向がある。 利回りが低ければ発行自治体の利払い費は安く済むが、投資家の受け取る利子は少なくなる。 利回りは、事前のヒアリングなどで投資家の需要によって決まる。このため、購入希望者が多いほど利回りは低くなる。それなのに、なぜ購入希望者が多いのか。 理由は大きく分けて二つある。 まず、購入する投資家の多くは地元企業だ。購入すると自治体のホームページに「投資表明」として公表されるため、環境保護活動を支援していることを消費者や地元にアピールできる。 背景には、政府が2020年に掲げた「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」という目標がある。企業が気候変動や大気汚染、森林破壊などの環境課題に対し、どのように行動しているかに焦点が当たる大きな契機となった。環境問題への取り組みは大企業で先行しているが、中小企業にも同様の姿勢が求められている。
みずほ証券のサステナビリティ戦略開発室の熊谷直也さんがこう指摘する。 「自治体による起債は、中小企業が単独で取り組みにくいところを補完する意味合いがある。『社として貢献したい』という思いでSDGs債の内容に共鳴して購入する場合もある」 もう一つの理由は採用面の効果だ。近年は学生が就職活動で会社を選ぶ際、社会的な活動をしているかどうかを重視する傾向が強まっている。SDGs債を積極的に購入することが若者への訴求力を高める面もあるという。 ▽後手に回っていた生物多様性への対策 グリーンボンドの資金使途は「多様化している」(みずほ証券の熊谷氏)。当初は地球温暖化防止に向けた照明のLED化や、災害の激甚化に備えた河川整備事業などに充てられることが多かった。 一方で、生物多様性への対策に関しては後手に回っていた。原因は、気候変動対策に比べて国内で明確な目標が定まっていないことや成果の測定が難しい面があるから。それでも、人々の環境に対する意識や関心が次第に高まった結果、野生生物の保護にも目が向き始めた。
特にブルーボンドに関しては、日本は海に面する自治体の多さや、漁業をなりわいとする地域性が地元の発展に大きく関わる。今後の拡大が期待されている。