利回りが低いのに、なぜ大人気?自治体が発行する「SDGs債」 企業が欲しがる真相…「漁場を守りたい」に6倍超の需要
加えて、これまで主要魚種だった秋サケやサンマで極端な不漁が続き、代わりにマイワシやサバといった、これまであまり捕れなかった魚が豊漁となっている。このため、新たな魚種に対応した水産加工施設の整備も盛り込んだ。 岩手県総務部財政課の田山健太郎調査担当課長は、債券発行の狙いをこう語る。 「県沿岸は東日本大震災で壊滅的な被害を受け、ハード面の復興は進んだが基幹産業の漁業は復興途上にある。水産業を持続的に発展させ、同時にいかに環境負荷を軽減できるかを考えた」 発行したのは50億円分。証券会社を通じて事前にヒアリングしたところ、「買いたい」と手を挙げる企業が続出。6倍を超える305億円の需要があったという。 ▽海の生態系保全へと広がる使い道 石川県がことし2月に発行したグリーンボンド(環境債)は、目的の一つがトキの保護。国内のトキは乱獲や生活環境の悪化により2003年に絶滅した。その後、中国から贈られたトキを繁殖させた。飼育数の増加を受け、野生に戻す取り組みが始まり、新潟・佐渡で野生のトキが定着した。
石川県は野生のトキが本州で最後に生息していた地として知られ、資金の一部をトキが住みやすい環境づくりに充てる。2026年度の放鳥に向けたロードマップを作成しており、調達資金の一部をえさ場となる水田などの整備に充てる。50億円の発行で、3.8倍の需要があった。 県財政課の井上亮課長補佐はこう説明している。 「石川県ではトキを再び羽ばたかせようと取り組んできた経緯があり、今回のグリーンボンド発行に当たり目玉事業の一つとした」 ▽コウノトリも、湖沼の水質保全も 動植物に焦点を当てたグリーンボンドの発行はほかにもある。 兵庫県は、コウノトリの最後の繁殖地。このため、2022年度から2年連続でコウノトリの成育環境整備を事業内容に盛り込んで債券を発行した。2022年度分は調達した計200億円のうち200万円を、県内2カ所で水場となる浅瀬の造成やえさ場づくりに充てた。 長野県は2023年の発行で、諏訪湖に生息する水生生物などを調査研究する施設の整備を盛り込んだ。諏訪湖では近年、ヒシの大量繁茂やワカサギの大量死が起きている。ヒシは水草で水面を覆うように葉を広げるため、湖の中に太陽光が届きづらくなり水中の植物が光合成できず貧酸素状態になる。施設は県内の河川や湖沼などの水質環境保全に向けた実態把握と課題解決のための研究機能に重点を置くという。