利回りが低いのに、なぜ大人気?自治体が発行する「SDGs債」 企業が欲しがる真相…「漁場を守りたい」に6倍超の需要
2023年7月、岩手県がある金融商品を発行した。すると、あっとういう間に完売し、注目を集めた。この金融商品は「グリーンボンド(環境債)」と呼ばれる債券。岩手県が発行した目的は、ごく簡単に言うと「豊かな漁場を将来に残すため、藻場を整備する」ことだ。 【グラフ】「SDGs債」の国内発行額の推移
この目的のように、人が地球で暮らし続けられる未来をつくるための道筋を示した「SDGs」は、小学校の総合的な学習でも取り上げられる重要な社会テーマだ。そんな「SDGs」を冠した金融商品「SDGs債」が近年、人気を集めている。 岩手県のグリーンボンドもその一つ。債券の主な買い手は企業などの法人で、自治体が発行すると即日完売が相次ぐという。自治体が発行するほかの債券に比べ、利回りは決して高くない。投資としての魅力は欠けるのに、なぜこれほど人気なのか。(共同通信=越賀希英) ※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽SDGsの17の目標 まず、SDGsとSDGs債について改めて説明したい。 SDGsの日本語訳は「持続可能な開発目標」。2015年の国連会議で採択された。「気候変動に具体的な対策を」、「海の豊かさを守ろう」といった17個の目標がある。
SDGs債は、これらに関連する事業に使われる債券。国際的なルールに沿って発行され、厳密な資金使途の区分や事業の選定方法などが必要だ。「SDGsの目標に沿っていればいい」というわけではない。 この債券にはいくつもの種類がある。うち、環境保護に関するものが「グリーンボンド(環境債)」。さらに、グリーンボンドのうち水資源に関係するものは「ブルーボンド」と呼ばれる。ほかには、学校整備など社会課題の解決に使われるものが「ソーシャルボンド」。海外では最近、女性の活躍を支援するための「オレンジボンド」も発行されている。 債券は資金調達の手段で、発行される前に募集額や年限、利率などが公表される。SDGs債は法人向けが多いが、条件次第では個人でも買うことができる。 ▽発行額50億円、需要は6倍 岩手県が今回、発行した背景には近海の海水温上昇がある。 藻場は「海のゆりかご」と呼ばれ、稚魚のすみかや魚の産卵場所となる。海の生態系を維持、回復するために重要な役割がある。このため、藻場の整備を債券発行の目的とした。