米英仏がシリア攻撃 「第二のキューバ危機」になり得るか
西側諸国とロシアの対立がさらに悪化の懸念
限定的な作戦とみられる今回のシリア攻撃だが、いくつかの問題点も露呈した。前述のOPCWは、シリア国内での化学兵器の使用は頻繁に行われていると指摘しており、昨年4月に同機関が明らかにしたところによると、2016年後半から2017年4月までの間に計45回の使用が確認されている。化学兵器の使用はジュネーブ議定書(1925年)に違反し、他国にとっても大きな脅威となるため、欧米諸国が素早いアクションを起こしたことは理解できるものの、化学兵器関連施設を破壊しても、シリア内戦を終わらせ、犠牲者の数を大幅に減らすことは困難であるというジレンマが存在する。 2011年に内戦が始まって以来、シリア国内では少なくとも40万人以上が死亡し(60万人という説も存在する)、約600万人が国外へ脱出した。約7年にわたって多くの死傷者を出してきた内戦だが、化学兵器による死傷者の数は全体の割合からすると多くはない。アサド政権軍が化学兵器を使えなくなったとしても、多数の市民の犠牲の大元であるシリア内戦自体はこれからも続くという見方が大勢を占めている。大国の思惑に市民が翻弄される構図は、残念ながらまだ続きそうだ。
今回のシリア攻撃は国連安全保障理事会や米議会からの承認を得ないまま実施された。イギリスでもメイ首相が議会の承認なしに攻撃に踏み切ったことに対する批判が噴出し、釈明に追われている。保守党の一部の議員と野党の労働党から、シリア攻撃には議会承認が必要だと念を押されていたメイ首相だが、アメリカの勢いに押されてしまったのだろうか。 一方、ロシアのプーチン大統領は、米英仏による攻撃について「侵略行為である」と激しく非難。ワシントンにあるロシア大使館はSNS上で、「攻撃は深刻な結果を引き起こすだろう」と警告を発している。ロシア国防省は記者会見で「少なくとも103発のミサイルが撃ち込まれ、71発を迎撃した」と発表したが、真偽は定かではない。 トランプ大統領はシリアで再び化学兵器が使用された場合には、新たな軍事攻撃の可能性もあることを示唆しており、西側諸国とロシアの対立構造がさらに深まることは必至だ。ロシアがウクライナへの介入を行った2014年を境に、西側とロシアの対立は鮮明化した。現時点では限定的なシリア攻撃だが、今後の展開次第では「第2のキューバ危機」を引き起こす可能性を危惧する識者もおり、予断を許さない。
-------------------------------- ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト