トランプ再び(3)日本はどう向き合うべきか
藤崎 一郎
米大統領への返り咲きを決めたトランプ氏に対し、今後の日米関係や通商政策をめぐって悲観論が漂う。だが、藤崎一郎・元駐米大使は「泰然自若としていることが大事。どうしようかって変に騒がないように」と提言する。
大統領選の結果はクリスマスの贈り物と同じ
トランプ氏の当選は意外ではありません。単純なマトリックスで考えると、アメリカ人が大統領に求めるのは3つです。第1に力強いリーダーであるかどうか。第2に「この人と一緒にビールを飲みたい」と思わせる親近感があるかどうか。3番目は、自分の生活にとって得かどうか。この3つのクライテリア(目安)で見るんだと思います。 トランプ氏は2番目の基準には合格しないものの、第1と第3の基準では合格する。特に3番目です。彼は「俺が大統領の時はインフレじゃなかっただろ?」と問いかける。さらに「俺は不法移民をほとんど入れなかった。バイデン政権でどっと増えただろ?」と。この2つが大きかった。 落選したハリス氏の通信簿はどうかというと、1番目の力強いリーダーというのを感じさせられなかった。2番目はよく分からない。トランプ氏の場合は好きか嫌いかで「嫌い」が多かったけど、ハリス氏を積極的に「好き」という感じにはならなかった。3番目の損得では、バイデン氏の政策をそのまま引き継いでしまい、何も改善、チェンジがないイメージを与えてしまった。こうして簡単なマトリックスに当てはめると、トランプ氏の勝利は理解できます。 トランプ勝利を早くから確信していたわけではありません。ただ、一時はご祝儀でハリス氏がリードしていた接戦州の調査データが、最後の10日間くらいでトランプ氏優勢に変わってきて、その数字が動かなかった。ここでもうトランプ氏かなと考えるようになりました。 私はかねてアメリカの大統領選挙はクリスマスプレゼントをもらった時と一緒だと言ってきました。プレゼントの包装紙を開いて「ああ、これが欲しかったんですよ」と歓迎してみせる。アメリカとは仲良くやるしかないんだから、とやかくは言わないことです。 「トランプ2.0」を心配する声はありますが、外交はその時々の状況に合わせていくしかないんです。彼は勝負師、ディールを好む人ですから、こちらが弱みを見せたら「そこを突いてやれ」と考える。ですから泰然としていることが大事です。ポーカープレーヤーと同じように、仮に悪い手が来ても何食わぬ表情で構えていること。「こちらはやるべきことはやってます。何か問題ありますか」って顔をしていればいい。 安倍晋三元首相がトランプ氏とうまくやったのは恐らく3つの理由がある。1つはゴルフなどを通じて1対1の関係を上手に作ったこと。2つ目は、日本の企業がいかにアメリカに進出しているかを、地図まで作って繰り返しトランプ氏に説明し、刷り込んだことです。彼が一番欲しがっていたのは自国への投資だったからです。3つ目は集団的自衛権の行使を含む平和安全保障法制を整備し、日本の防衛努力を形にしたことです。 最近では岸田文雄元首相の貢献が大きかった。防衛費を5年間で倍増すると決断し、日本が反撃能力を持つためにアメリカからトマホークを400発買うことにした。さらに米軍と自衛隊とのジョイントコマンド(統合指揮)も進めている。石破茂首相はこれを引き継いでいけばいい。相手から「日本はただ乗りじゃないか」と言われても、「いや、こんなことをやってますよ」と言える材料が手元にある。 経済については例えば自動車輸出だと、日本のメーカーがアメリカで生産している分が280万台。日本から輸出している分が150万台。さらにメキシコで作ってアメリカに送っている分が120万台です。2022年と23年でばらつきはありますが、だいたいこんな数字です。つまりアメリカ国内だけで輸出分と同じくらい生産している。問題はメキシコでの生産分がトランプ政権の関税引き上げでどんな影響を受けるかです。ここは各メーカーがシフトを変えていかなければならないかもしれません。