人気者の男子が夏休みに死んで学校のスピーカーに憑依!? 中江有里「私が選んだ本ベスト5」夏休みお薦めガイド(レビュー)
金子玲介のデビュー作『死んだ山田と教室』。冒頭から2年E組に放り込まれたかのよう。山田との不思議な日々を過ごした読後感。 夏休みが終わる直前、クラスで人気者だった山田が死んだ。二学期を迎え、山田の不在に揺れる教室で、山田の声が突然聞こえる。どうやらスピーカーに憑依したらしい山田。「声」のみの山田の存在はクラス全員の秘密となった。 男子高校生らしいテンションとちょっとバカっぽい会話のドライブ感が楽しく、山田によってクラスのひとりひとりの個性が浮き上がってくる。 夜の教室で深夜ラジオのDJに成りきる山田の声はさみしい。やがて同級生たちは卒業し、社会人となった後も山田の「声」は残る。なぜ彼はそこに居続けるのだろう? ある答えにたどり着いた時、心がカッと熱くなった。青春の刹那を描いた傑作だ。
古内一絵『東京ハイダウェイ』は東京で働く人々が主人公。ストレスや苦しさを癒す隠れ家にまつわる六篇の物語。 虎ノ門のオフィスに勤める桐人は、仕事への向き合い方が真面目すぎる、と同僚から目の敵にされる。ある日、同僚の璃子の颯爽とした後ろ姿に惹かれて追いかけると、プラネタリウムに辿り着いた(「星空のキャッチボール」)。 年下の夫との間に二人の子どもがいる恵理子はマーケティング部のマネージャー。一見華やかだが実際は離職率の高い職場をまとめる中間管理職。職場でも家庭でも板挟みになり、苦しくなった恵理子は気づくと熱帯植物館の前にいた(「森の箱舟」)。 大きな成功は得られなくても、与えられた役割に自負をもつ姿は清々しい。実在する隠れ家はどこも魅力的で、足を運びたくなった。
山室寛之『2004年のプロ野球 球界再編20年目の真実』。今から二十年前、赤字球団続出のパ・リーグでは近鉄とオリックスが合併し、さらにもう二球団の合併が画策されていた。 「十球団一リーグ」へつき進もうとした球界に選手会は「待った」をかけた。 世間を揺るがした球界再編はダイエーの身売り、楽天の新規参入を経て、現在の形になった。その舞台裏を当時の関係者の証言を交えて伝える一冊。 柴崎友香『あらゆることは今起こる』。ADHDと診断される前から「人と違う」こと、他の人の感覚が気になっていた著者。小説を読むことは「わからないこと」のストックを増やすことという。読みながら著者の精神世界へ深く潜り込む感覚が不思議と楽しい。