ピッチサイド　日本サッカーここだけの話

　「『オシム』って言っちゃったねぇ……」。サッカー・Ｊリーグ初代チェアマンで、日本サッカー協会会長などを歴任した川淵三郎さんが、読売新聞ポッドキャスト「ピッチサイド　日本サッカーここだけの話」に出演。番組ＭＣの元男子日本代表の槙野智章さんに、２００６年ワールドカップ（Ｗ杯）ドイツ大会後に飛び出た歴史的な「失言」の真相を明かした。 【写真】歴史的な瞬間…川淵さんと握手をするオシム氏

「言っちゃった」失言？計算？

　その失言は２００６年６月２４日、Ｗ杯ドイツ大会の帰国後会見で飛び出た。

　２００２年の日韓Ｗ杯を経たドイツ大会の「ジーコジャパン」は、中田英寿さんや中村俊輔さん、小野伸二さんらを「黄金の中盤」と呼び、サポーターの期待値はいや応なしに高まっていた。

　しかし、日本代表は１次リーグを１分け２敗で最下位に終わり、メディアやサポーターはジーコジャパンへの批判を強めていた。ジーコ監督不在の帰国会見で、川淵さんは記者の質問に次のように答えた。

　「反町監督はオリンピックチームを見てもらい、それのスーパーバイザー的な、総監督としての立場で『オシム』が。あっ、オシムがじゃない。あのー、『オシム』って言っちゃったねぇ……」

　当時日本サッカー協会会長だった川淵さんが発したひと言は、瞬く間に日本中を駆け巡った。

　「弱っちゃったねぇ。俺、つい何となく口走ってしまって。うそをついて取り消すのも変な具合だし、どうするかねぇ。頭が整理されてない段階でつい出てしまったんだけど。うーん……。ここで聞かなかった話っていうことにはならないだろうねぇ」

　会見場の報道陣からどっと笑い声が上がった。

　と、同時にサッカー協会や代表チームへの批判のエネルギーがふっとしぼんだ瞬間でもあった。

　翌２５日の読売新聞朝刊には「『言っちゃった』失言？計算？」の見出しで次のような記事が載る。

　「川淵会長は退席し、田嶋幸三・協会技術委員長と約１０分にわたり相談。その後、田嶋委員長を伴って会見場に現れた川淵会長は、『今回は秘密でやろうと思ったのだが、思わず言ってしまった。Ｗ杯前からオシムと交渉している』と笑顔で認めた。ただ、このドタバタ劇も、日本代表の惨敗で、ジーコ監督や選手、協会に対する批判が高まっている中での帰国だっただけに、世間の関心をそらそうという計算があってのものと見えなくもない」