比嘉愛未が『作りたい女と食べたい女』から受け取ったこと。「傷ついたりストレスを抱えたりする人が少しでもいなくなった方がいい」
「傷ついたりストレスを抱えたりする人が少しでもいなくなった方がいい」講習を受けて感じたこと
―『つくたべ』はレズビアンの恋愛を描いた作品でもあり、撮影に入る前にジェンダーやセクシュアリティに関する講習会が開かれたと聞きました。前回に続いて今回も開催されたとのことなのですが、講習会を通して比嘉さんのなかにどんなことが落とし込まれましたか? 比嘉:合田文さんが作品の考証としてすごく力を貸してくださっているんですが、本当に貴重な機会で、大切なことだと思いました。 私を含め、日本でのLGBTQ+に対するイメージはやっぱり「特別なもの」ととらえられがちで、なかには性的な部分がフォーカスされてしまうこともある。前回に続いてあらためて合田さんの講習を聞いて、自分が「普通」だと思っていることがじつは相手にとってはすごくプレッシャーになったり、傷つけたりしてしまう可能性があるということに気づかされました。みんなの感覚を「普通って何?」というところに戻らせてくれる、すごく貴重なセミナーでした。 私の場合は、「37歳、女優、まだ結婚していない」と書かれることがあります。その「まだ」という言葉を見るとガクンとしてしまう。「まだ」とか、「なんでしていないの?」とか、そういう言葉もそうですよね。自分に置き換えると感覚がわかるところがありました。 好きな相手が同性だったという、ただそれだけにもかかわらず、なぜか特別なものにされてしまう。やっぱりお話を聞いてみると、この世の中は変わらなきゃいけないんだと思いました。そうやって傷ついたりストレスを抱えたりする人が少しでもいなくなった方がいいじゃないですか。 それを表現というかたちで提示できるのであれば、ちゃんと誠実に、忠実に代弁していきたいと思いましたし、その熱量をすごく持っている方たちなので、ちゃんと聞けてよかったなと思います。 ―野本さんも料理好きなことで「いいお母さんになれそう」と言われてしまいますし、女性は結婚や出産を前提にした言葉を投げかけられることもありますよね。 比嘉:私はこの作品に出会えて、そういった人の関心ごとや興味本位での言葉を受け止めすぎないようになって、私は私でいいんだ、人と比べずに生きていこうと思えるようになりました。 その代わり、自分も人に対して差別や偏見は向けないようにする。もともと意識はしていたけれど、無意識こそが一番怖いということに気づいたので、無意識な発言をなるべくしないように気をつけようと思いました。たとえば、「彼氏いるの」とか「彼女いるの」じゃなくて「パートナーいるの?」という言葉に変えるだけでも違うのではないかと思っています。 ―講習会で感じたことは、どんなふうにお芝居に活きていくと感じますか? 比嘉:お芝居は基本的に台本があって、セリフがあって、そこに感情などを肉付けする作業だと思っているんですが、こういった深いテーマ性がある作品は当事者の方たちに「違う」という違和感を感じさせないことが一番だと思うんです。 ちゃんと聞いたうえで、知識を入れたうえでやることが誠実なものづくりだと私は思っているので、完全に知識を身につけるということは難しいかもしれないですけれど、学ぼうという気持ちはちゃんとお芝居にも出ると信じています。なので、必要な役作りという意味でも、前回も今回も講習を受けて挑めたことは大きかったです。