伊豆大島のキョン1万3000頭、根絶目指し都が前年度比1.4倍の4億円予算化
東京都大島町の伊豆大島で野生化したキョンが増え続け、絶滅が危惧される植物への影響やアシタバなど農作物被害が問題になっています。人口約8000人の島民に対し、キョンの生息数は推測1万3000頭。都は、2016年度に対策予算を前年度比約3倍に増額し、新年度予算でもさらに前年度比45%増となる約4億円をつぎこむなど、町民の1.6倍にまで増えたキョン根絶に向け、本腰を据えて取り組み始めました。
農作物被害額は約360万円 島の希少な植物など生態系への影響を懸念
キョンは、外来生物法により、2005年から特定外来生物に指定されている肩高(肩の高さ)約50~60cm程度ほどの小型のシカの一種です。中国南東部および台湾に分布しており、そもそも伊豆大島には生息していませんでした。 当初、キョンは島内にある都立大島公園で飼われていましたが、1970年秋の台風によって柵が壊れ、逃げ出したものが野生化。キョンは生後1年経たないメスも妊娠し、年間通じ、繁殖が可能です。そのため、もともと逃げ出したキョンは十数頭でしたが、都が2014年に行った調査では、約1万1000頭前後が生息すると推定されるまで、爆発的に増えました。 キョンは、地面の草を食べますので、生息数の増加にともない生態系に与える影響が大きくなると懸念されています。実際に、アシタバなど、島で栽培されている農作物への被害も発生しており、大島町によると、キョンによる農産物被害額は2015年度で約361万円にのぼります。 また、島内には、環境省が絶滅危惧II種(絶滅の危険が増大している種)、都が絶滅危惧IB類(近い将来における野生での絶滅の危険が極めて高いもの)に指定する「キンラン」や、都が絶滅危惧IA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険が極めて高いもの)に指定する「ギンラン」といった希少な植物も自生します。
16年度前年度比3倍の2億8000万円、新年度4億円 予算大幅増加
このため、都は2016年度前年度比約3倍となる約2億8000万円の予算を計上し、キョン対策を強化しました。新たに生息数が多いとみられる地域を、10メートル間隔の金属柱の間に樹脂性ネットを張りめぐらせた高さ1.5メートルほどの柵で囲い込み、集中的にキョンを捕獲する方法を採用。張り網などのわなや鉄砲による捕獲などの従来施策もより強化し、これらに予算の増額分をあてました。 2017年度は、さらに予算を増し、前年度比約45%増の約4億500万円を計上。従来の施策は続けつつ、増額分は張り網の追加設置などにあてる予定です。都の環境局によると、設置する柵の総延長や設置箇所数、わなの個数など具体的な数字については、公表すると予定価格が想定しやすくなり対策事業関連の入札に支障が出るとして明らかにしていません(グラフ1)。 キョンの捕獲数は1022頭(2014年度)、1412頭(2015年度)と年間1000頭以上で推移していますが、増加に歯止めはかからず、都が前年度初頭に行った調査では、約1万3000頭前後とさらに増えたと推定されるそうです。ちなみに、大島町の人口7928人(2016年4月時点)の1.6倍に相当します。 都環境局の話では、2016年度から2020年度までの5年間で計1万頭を捕獲する予定ですが、2020年度までの根絶は難しいとして、「5年間で増加を止めて、減少に転じさせたい」と述べるにとどまります。長期的には根絶を目指すとしていますが、時期の見通しは立っていません。 キョンに悪気はなく、非は逃がしてしまった人間側にあります。かといって捕獲をやめれば、島の生態系や農産物に壊滅的な打撃を与えるまで増え続けると見られ、対策事業から退くわけにもいきません。根絶まで税金を注ぎ込み続けるしかないのが現状です。 (取材・文:具志堅浩二)