韓国の大混乱で注目、「戒厳令」はなぜ必要か…日本には規定なし、運用誤ると独裁に道
■ 韓国では「戒厳令」を憲法でどう規定している? 今回、非常戒厳を発した韓国は憲法に緊急事態条項を明記しています。どのように規定されているのでしょうか。条文を見てみましょう。 【第76条】 大統領は内憂・外患・天災·地変又は重大な財政·経済上の危機に際し、国家の安全保障又は公共の安寧秩序を維持するため緊急の措置が必要であり国会の集会を待つ余裕がないときに限り最小限の必要な財政・経済上の処分を行い、又はこれに関して法律の効力を有する命令を発することができる。 【第77条】 1.大統領は戦時・事変、又はこれに準ずる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じ、又は公共の安寧秩序を維持する必要があるときには法律の定めるところにより戒厳を宣布することができる。 2.戒厳は非常戒厳と警備戒厳とする。 3.非常戒厳が宣布されたときには法律の定めるところにより令状制度、言論・出版・集会・結社の自由、政府や裁判所の権限に関し特別な措置をすることができる。 先に記したように、緊急事態宣言下で戒厳令が布告されると、国民の自由や議会活動は大きく制限されます。一時的に独裁状態をつくり出すと言ってもいいでしょう。したがって、運用を誤ると、国家と社会はとんでもない方向に進んでしまう恐れがあります。その端的な例がドイツのナチス政権です。
■ ナチスは「大統領令」を繰り返して独裁を完成させた 1930年代のドイツで独裁体制を築き上げたナチス(ドイツ国家社会主義労働者党)は、当時世界で最も民主的・進歩的と言われたワイマール憲法下の議会制民主主義から誕生しました。 ワイマール憲法の第48条には「国家緊急権」の規定があり、ナチスのヒトラーはこれを利用して法律と同等の効力を持つ大統領令を連発。ナチスに反対する政党や団体を非合法として社会から排除し、短期間に独裁を完成させたのです。 戦後、多くの国はこうした歴史を教訓とし、緊急事態の発動に厳しい要件を課すようになりました。同時に政権・軍部が暴走しないよう、期間の延長や宣言の解除などには議会が関与できる仕組みを多くの国が設けています。 例えば、ギリシャでは、政府が宣言を議会に提案し、議会の総議員の5分の3が賛成した場合に緊急事態を宣言することができます。期間は最長15日間。延長するには総議員の過半数の賛成が必要です。 12月3日に「非常戒厳」を発した韓国では、発動に関しては、大統領が首相・関係各省の副署名を得ることを必要とする一方、総議員の過半数の要求によって議会が解除を求めた場合には大統領は宣言を解除しなければなりません。