なぜ日本がアメリカ以外で初めて月面着陸する国として選ばれたのか? 「アルテミス計画」探査車開発の見返りに得た切符と、米中競争の影
アメリカが主導し、日本や欧州などが参加する国際月探査「アルテミス計画」で、2人の日本人宇宙飛行士が月面を目指すことになった。ワシントンを訪れた盛山正仁文部科学相が現地の4月9日、米航空宇宙局(NASA)のビル・ネルソン局長と「実施取り決め」に署名した。日本は宇宙航空研究開発機構(JAXA)がトヨタ自動車などと開発する探査車「ルナクルーザー」を提供することも決めており、この貢献にアメリカが月への切符で応えた。 【写真】開発進む「ルナクルーザー」どんな宇宙船?日本の技術で月面探査へ
では、そもそもアルテミス計画とは何だろうか。なぜ日本がアメリカ以外で初めて月面着陸する国として選ばれたのか。そしてこれからどうなるのか。(共同通信ワシントン支局 井口雄一郎) ※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽アメリカの威信を賭けたアポロから、国際計画のアルテミスへ 冷戦下の1961年5月、ケネディ大統領は「この10年のうちにアメリカが月に人を送り届け、安全に帰還させる」と表明した。世界初の人工衛星打ち上げと有人宇宙飛行に成功したソ連に勝つとのプレッシャーがあった。こうして始まったアポロ計画では実際に1969年、人類初の月面着陸を成功させ、1972年までに6回、計12人を月面に送った。だが、ソ連に対する優位を示したアポロ計画の終了後、月への関心が向きにくい時期が続いた。 1990年代になると、探査機を使った月の調査がまた行われるようになる。南極などに氷が存在する可能性が浮上し、関心が再び高まってきた。
21世紀初め、ブッシュ政権(共和党)は有人月探査計画「コンステレーション」を打ち出し、宇宙船やロケットなどの開発を始める。だが予算超過や遅れもあり、次のオバマ政権(民主党)は小惑星や火星に人を送る方針に切り換える。 これをひっくり返し、有人月面着陸に焦点を当てたのが2017年発足のトランプ政権(共和党)。アルテミス計画が始まる。名前の由来はギリシャ神話に登場する月の女神で、太陽の神アポロンとは双子だ。NASAは当初、月面着陸の目標を2028年としたが、ペンス副大統領が2024年に早めさせた。トランプ政権が2期続いた場合、月面着陸を成果として歴史に残すためだと言われている。 現在のバイデン政権(民主党)もアルテミス計画を継承した。月や惑星の形成過程を探る科学探査や月を舞台とした新たな経済の振興、企業や友好国との協力のもと次世代を宇宙探査に誘うことを目的に掲げた。 2022年には第1段階として、宇宙船オリオンを無人で打ち上げ、月の近くまで行って帰ってくる飛行試験を成功させた。次の第2段階は2025年9月、4人の飛行士を乗せて月の上空に向かう。アポロ計画以来となる有人着陸は2回の計画遅れを経て、今は2026年9月の予定だ。最終決定はまだだが、この機会には米国の飛行士2人が月面に降りる見込みだ。