思ってた麻酔とちがう/執筆:井原奈津子
みなさんは「全身麻酔」をしたことがありますか? 私は今年の6月、骨折の手術で初めて全身麻酔をしたのですが、半年近く経ったいまもときどき思い出しては「あれは面白かったな~」と、フワフワした気持ちになっています。 井原奈津子さんの1ヶ月限定寄稿コラム『TOWN TALK』を読む。 珍しい経験だからということもありますが、想像していたものとは少し違い、それが興味深かったのです。
全身麻酔については、以前から人に聞いていました。 「直後から記憶がなくて、次に目を開けたらもう手術が終わってたんだよ」。時間がワープするんだな、面白いなーと思っていました。 そしていざ、実際に経験してみると。 たしかに麻酔がかかっている時間は全く記憶がなく、真っ暗闇の「無」そのものでした。 しかし、あると思っていた「ワープ」はなかったのです。めっっちゃ、時間の感覚がありました。しかも、ほぼ正確な。 順を追って話しますと… 私の手術が始まったのは17時。終了予定は18時でした。 手術後、名前を呼ばれて目を開けると…「え。時間経ったの、めっちゃわかるじゃん」 「1時間?もう少し長かったと思うけど…」。時計をみると、手術が長引いたとのことで19時近く。「はいはい、まさにそのくらい経った感じがするよ!」
「意識はないけど、時間の感覚はある」。これが、私の麻酔体験でした。 例えば、SF映画などに出てくる「コールドスリープ」。あれも「無」になって時間をワープできると思っていたけど、もしかして時間感覚は残るのか?起きたときに、私と同じように「めっちゃ100年経った気がするわ~!」とか思うのだろうか。それってすごく面白い。
もうひとつ。 「無」になっていても時間の経過がわかるなんて、体って不思議。人間ってすごい。自分、すごい。と、三段論法で自己肯定感が高まっています。おめでたいかしら。 まとめ。「全身麻酔」は、興味深い体験でした。全身麻酔をするような、ある意味人生の辛い局面に立った場合は、麻酔から覚めた時にどう思うか、それを楽しみにすると、少しはラクな気持ちになるかもしれません。どうぞお大事に。
プロフィール
井原奈津子 いはら・なつこ|1973年、神奈川県生まれ。手書き文字愛好家として、習字教室の運営や手書き文字の紹介に関わる。著書に『美しい日本のくせ字』(2017年・パイ インターナショナル)、『たくさんのふしぎ 字はうつくしい』(2022年・福音館書店)。 text: Natsuko Ihara, edit: Nozomi Hasegawa
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